クロスインダストリーの視点で、ビジネスモデルを“再発明”する

服部 日本企業の歴史をひも解くと、特定の事業領域において改善を積み重ねて、小さな差別化を図ることは得意なのですが、それだけを続けているとやがて過当競争に陥ります。ですから、真の差別化によって新しい市場を創造していく必要があるのですが、食品、電力、物流、小売りといった事業領域をマップに落とし込んでいくと、まったく白紙の領域を見つけ出すのは難しいのが現実です。

 そこで私たちが提唱しているのが、事業領域が重なる部分に新たな機会を見出す「X-Industry」(クロスインダストリー)の視点を持つことです。

 たとえば、今後EV(電気自動車)が増加していく中で、再生可能エネルギーの発電量が落ちた時に供給を補う調整電力として、EV用バッテリーを電力系統に統合するVGI(Vehicle Grid Integration)などの新領域が生まれます。そこでは、分散電源をまとめて管理し、需給調整を図るアグリゲーションが新たな価値を生み出しますし、バッテリーの充電・交換サービス、中古バッテリーのメンテナンス・流通といったバッテリーライフサイクルビジネスも広がっていくでしょう。モビリティとエネルギーが重なる領域で、事業機会がどんどん生まれると考えられます。

 このような事業領域の質的変化を的確にとらえて、自社の競争優位性を高めるビジネスモデル変革を、私たちは「Business Model Reinvention」(ビジネスモデル・リインベンション)と呼んでいます。

 ビジネスモデル・リインベンションには、従来の製品や資産をオンデマンド型サービスへと変容させる「XaaS」(Anything-as-a-Service)、アナログまたはデジタル製品をコネクテッド製品へ移行し、パーソナライズされた製品・サービスを実現する「フィジカル/コネクテッド製品」、新たなチャネルを構築して顧客と直接つながる「チャネル・ディスインターミディエーション」など、大きく6つのタイプが挙げられます。

 これら6つのタイプに共通しているのは、テクノロジーが欠かせない要素となっていることです。

 まさにそうですね。かつてはビジネスとして実現したいことが先にあって、実現する手段としてどういうテクノロジーを使うかを検討するという順番でしたが、いまは進化したテクノロジーを起点にして新しいビジネスモデルを構築する時代になりました。

 そうしたテクノロジー起点のビジネス変革に必要な2つの視点があります。一つは、戦略立案を担う人がテクノロジーの知見を養い、テクノロジーの専門家がテクノロジーを使いこなすことで、どのようなビジネスモデルを実現しうるかを考察するといったように、みずからの専門性と新たな技術を結びつける多角的な視野とビジネスへの応用力を持つことです。

 もう一つは、メガトレンドに象徴される社会やビジネス環境の大きな変化を予見、俯瞰して、ビジネスチャンスやリスクを深く洞察することです。

桂 憲司
Kenji Katsura
PwCコンサルティング 専務執行役 パートナー
PwC Japanグループ オファリング&プラットフォームリーダー

企業としては、そうした専門家たちの知を統合し、戦略の構築、施策の実行に活かしていくケイパビリティが求められる。PwCでは、それを「統合知」と呼び、統合知による変革を支援している。