サマリー:国内市場の成熟化により成長機会が先細る中、戦略オプションとしてのM&Aの重要性は高まる一方だ。企業変革とM&Aを一体的に進める概念と、そこで必要となる組織能力についてPwCコンサルティングが解説する。

目まぐるしい環境変化に対応しながら新たな成長機会を獲得していくために、M&A(合併・買収)の戦略的重要性がますます高まっている。国内市場の成熟化が顕著な日本企業にとっては、特に重要な戦略オプションといえる。そこで、M&Aを起点とする変革と企業価値の向上について、PwCコンサルティングの2人のパートナーがその要点を解説する。加えて、キリンホールディングス(以下、キリンHD)が事業ポートフォリオを機動的に見直しながら持続的成長を達成してきた軌跡と、そのために磨き上げてきた組織能力を紹介する。
(本稿は、ダイヤモンド社が主催したオンラインセミナー「持続的な成長を実現する企業戦略」から、PwCコンサルティングによるセッション「企業の変革とM&A」の内容を抜粋したものです)

M&Aを起点として価値創造の循環をつくり出す

「企業の変革とM&A」に先だって行われたセッション「変化する世界と日本企業が取り組むべき成長のための変革」(*)において、PwCコンサルティングはメガトレンドから見た改革の9つのポイント、そしてビジネスモデル変革の6つのタイプを示した。こうした変革を実行するための戦略オプションとして、M&Aの重要性がますます高まっている。そこで、企業変革とM&Aの関係性を再定義する新たな概念として、PwCがグローバルで提唱しているのが「Transact to Transform」(トランザクト・トゥ・トランスフォーム)である。この概念について、PwCコンサルティング ストラテジーコンサルティング パートナーの久木田光明氏が説明する。

久木田 M&Aは、事業に新たな成長機会をもたらし、革新的な製品・サービスの取得と新たな市場への浸透を短期間で実現させます。さらにはそれらに必要な組織能力やスキルを時間をかけずに獲得できるという大きな特性があります。

 企業に求められているスピーディかつ持続的な変革と、いま述べたM&Aの特性を踏まえると、M&Aはもはやイベント的かつ特別な選択肢ではなく、継続的にチャレンジし続けるべき企業変革アジェンダといえるのではないでしょうか。

 PwCでは、このような考え方から「Transact to Transform」というコンセプトをグローバルで提唱しています。これはM&Aを起点に変革を生み出す概念であり、M&A戦略の策定といったプレディールから、M&A後の事業・組織統合といったポストディールまでのプロセスにおける価値を最大化するだけでなく、その後のトランスフォーメーションまでをカバーします。

 また、事業変革後にカーブアウト(事業の分離・独立)や新たな買収といったディールを生み出す「Transform to Transact」へと機動的につなげることで、価値創造の循環をつくり出す概念でもあります。

 PwC Japanグループでは、コンサルティングだけでなく、M&Aアドバイザリー、監査などのアシュアランス、リーガル(法務)、タックス(税務)といったグループ全体の専門性と組織能力の組み合わせや連携によって、このTransact to Transformの実現を支援しています。さらに、クロスボーダー案件においてはPwCのグローバルネットワークを駆使し、クライアント企業のTransact to Transformを一貫してサポートする体制を構築しています。

久木田光明
Mitsuaki Kukita
PwCコンサルティング ストラテジーコンサルティング パートナー

Transact to Transformによる価値創造の循環を回し続けるには、企業側にも従来にはない組織能力の構築が求められる。その具体像をPwCコンサルティングのパートナー、石本雄一氏が示す。そして、キリンHD執行役員経営企画部長の高岡宏明氏との対談を通じて、M&Aを活用した持続的成長に欠かせないポイントを、組織能力の観点から見ていく。