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戦略プランニングか
戦略クラフティングか
だれかが戦略を計画立案している様子(プランニング)を想像してみよう。我々は、体系的に思案している様を思い浮かべるはずだろう。たとえば、オフィスで1人または数人の執行役員が椅子に座って、これからの行動の順序や方向を考えている姿である。そしてほかの人たちは、ここで決められた方向に従い、スケジュールどおり遂行することになる。
その前提は、理性、合理的な統制、競合他社や市場に関するシステマティックな分析、自社の強みと弱みの分析、そしてこれらの分析がもたらす総合的な判断に基づいて、明快かつ具体的、そして網羅的な企業戦略を策定するといったことである。
では次に、だれかが戦略を創作している様子(クラフティング)を想像してみよう。前とはまったく違ったイメージが浮かんでくるだろう。すなわち工芸制作が機械生産と異なるように、クラフティングもプランニングとは異なる。
工芸の世界は、長年来の伝統技能、わが身の献身、ディテールへの精通によって、初めて完璧さが得られる。クラフティングについて我々の心に浮かんでくるイメージは、思考や理性ではなく、むしろ長い経験や没頭、手持ちの素材への愛着、バランス感覚といったものである。形成していくプロセスと実行するプロセスとが学習を通じて融合し、その結果、独創的な戦略へとだんだんと発展していく。
私の問題意識は至極明快である。戦略は工芸的に創作されるというイメージこそ、実効性の高い戦略が生まれてくるプロセスを言い表しているのではないかというものである。
これまでの経営学の文献によれば、前者のプランニングのイメージのほうが一般的だが、これは戦略が形成される過程を歪曲している。数々の組織がこれを何ら疑うことなく受け入れてきたが、その結果、誤った方向へと導かれてしまった。
私はこのテーマを展開するに当たって、ある一人の工芸家(それは陶芸家である)の創作プロセスを分析し、これをさまざまな企業における戦略形成プロセスについて数十年間追跡してきたプロジェクトの調査結果と比較してみようと思う。