空間と量子、2つのコンピューティングの相互補完性

——空間コンピューティングと量子コンピューティングのハイブリッドな活用が進むことによって、どのような世界が現れるのでしょうか。

寺園 一言で言うと、現実世界と仮想世界の融合です。デジタル空間で現実世界が臨場感を持って再現される一方で、私たちがいる空間にまるで本物のような物体や人、情景をデジタルコンテンツとして呼び出せるようになります。そして、2つの世界はリアルタイムかつインタラクティブに融合します。

寺園知広
Tomohiro Terazono
デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター
先端技術R&Dチームリード

 そのような鏡の世界では、人類の欲求は物質的な充足よりも「精神的な満足や安全と健康」に向かうと予想されます。企業は、より人間らしい要素、人の五感に働きかける要素に食い込んでいかなければ、ニーズを満たせなくなります。

 その状況においては、現在のAI(人工知能)を活用したデータ分析で実施されているレベルを超えて、これまで認知できていなかった次元(空間・環境、深層心理など)の情報を把握、補完し、デジタル空間上でプロトタイピングを走らせ、プロトタイピングの主体の内と外(社内と社外など)の情報を組み合わせたシミュレーションができてこそ、ニーズを満たす施策が打てるようになっていきます。

 個人のレベルだけでなく、コミュニティ、企業、社会、国家、地球のそれぞれのレベルで、プロトタイピングとシミュレーションが日常的に行われ、人も企業も政府も、より適切に、安全に、低コストで意思決定できるようになるでしょう。

寺部 そうした鏡の世界を実現するには、センシング技術の高度化と圧倒的なシミュレーション精度、リアルタイム応答性が必要であり、空間コンピューティングと量子コンピューティングが大きな柱となります。

 シミュレーションには2つのアプローチがあります。物理法則や経験則、研究結果などに則った方程式に基づく方法と、実測されたデータからパターンを見つけ出し、データドリブンで動かす方法です。現在はこの2つの組み合わせが重要となってきています。

寺部雅能
Masayoshi Terabe
デロイト トーマツ コンサルティング 量子技術統括

 空間コンピューティングは、これら2つのアプローチの組み合わせとして、データセンシングとAI、メタバースなどの技術や物理法則を統合したシミュレーションを可能にしますが、シミュレーションの精度や速度には限界があります。そのため、量子力学が支配するミクロ空間の物理シミュレーションと、高速な計算を可能にしうる量子コンピューティングが加わることで、将来さらなる価値が提供されていくでしょう。

——空間コンピューティングと量子コンピューティングをどう組み合わせることで、どんなことが可能になるのでしょうか。

寺部 ミクロからマクロまで3つのユースケースを説明します。