サマリー:パナソニックグループは、膨大なITレガシー資産を抱えながら、独自のDXプロジェクト「パナソニックトランスフォーメーション」(PX)を推進している。その目指すべき方向性と取り組み内容について語ってもらった。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現には、システムだけでなく人材や企業文化の変革も重要となる。しかしながら、従来のレガシー化した膨大なIT資産や慣習が足かせになり、多くの企業でこれらの変革が思うように進んでいない。日本を代表する企業であるパナソニックグループも約1200の既存システムを抱えている。このような状況下で、パナソニックの情報システム子会社であるパナソニック インフォメーションシステムズ(パナソニックIS)は、同グループのITインフラを、DXプロジェクト「パナソニックトランスフォーメーション」(PX)を支える「デジタルプラットフォーム」へと変革させることに挑戦している。このプロジェクトでは、ITだけでなく、オペレーティングモデル、カルチャーを含めた3層の変革を狙っている。一連のITインフラ変革をリードするパナソニックIS取締役の酒井智幸氏と同プラットフォームサービス事業部事業部長の横須賀武士氏、クラウド活用の高度化や組織風土の変革などを支援するPwCコンサルティング執行役員の中山裕之氏、同シニアマネージャーの岡田裕氏にこのチャレンジと変革の道程について聞いた。

多くの企業が抱えるレガシーシステムのジレンマ

――なぜいま、パナソニック インフォメーションシステムズ(パナソニックIS)が取り組むITインフラ変革「ベストハイブリッドプラットフォーム」(BHPF)が注目されているのでしょうか。

中山(PwC) 技術の革新は日進月歩であり、特にクラウドは驚異的なスピードで進化を遂げています。昨今注目されている生成AIについても、各クラウドベンダーは競うように新サービスをリリースしています。もちろん生成AI以外にも、見える化ツールや監視、運用自動化などに関わる新サービスが続々とリリースされ、海外ではこのような技術を活用して変革を実現している事例が出ています。しかし、日本の多くの大手企業は複雑化・巨大化した現行システムの運用や保守切れ対応、さらにはブラックボックス化などが足かせとなり、クラウドなどの新しい技術を活用したITの変革が思うように進んでいないのが現状です。

 国内有数の大企業であるパナソニックグループも同様の課題を抱えていましたが、パナソニックISは新しい技術を積極的に活用しながら、従来のITインフラを「DXを支えるプラットフォーム」へと変革させるべくチャレンジを続けています。特に既存のオンプレ(自社運用)資産を抱えながら、クラウドを効果的に活用する「ベストハイブリッドプラットフォーム構想」は、多くの企業にとってのヒント、あるいは解になるのではないかと考えます。

――パナソニックグループの従来のITインフラはどのような状態でしたか。

酒井(パナソニックIS) パナソニックグループの情報システム部門は、長年にわたってシステム基盤を独自に構築・運用してきました。その技術力や積み上げてきた知見・ノウハウは大きな強みですが、逆に多くのIT資産を抱えて膠着した状態になり、クラウド化などに遅れが生じていたのも事実です。そこで、パナソニックグループでは2021年に始動したDXプロジェクト「PX」(パナソニックトランスフォーメーション)の下、グループ全体のITインフラの変革に取り組み始めました。

 次ページ以降では、パナソニックグループの「DX」プロジェクトである「PX」への具体的な取り組みやPXにおけるパナソニックISの役割などについて解説していく。