新たな課題や技術には「自分も最初から関わる」

堀田 僕自身、もともとアパレルメーカーで営業やMD(マーチャンダイザー)として育ったので、デジタルとは無縁の世界にいました。その後、ファッション関係の出版社に転職して、EC事業の立ち上げプロジェクトに携わりました。そのプロジェクトはファッション畑の人とエンジニアの混成チームだったのですが、カルチャーや考え方が違うし、使う言葉も違う。

 その両者の橋渡し役を僕が買って出たのですが、ファッション畑の人にデジタルを理解してもらうのと、エンジニアにファッションを理解してもらうのと、どちらが早いかというと圧倒的に前者です。もともとファッションが好きで、お客様のことを知りたいというモチベーションがある人は、デジタルツールが役に立つとわかれば自分で試してみようと思います。逆に技術的に何ができるかわかっていても、ファッションが好きではないし、お客様に関心がない人にモチベーションを植えつけるのはすごく難しい。

 デジタルの知見があまりない状態でチームにジョインしてくる人たちのスキルをどうやって高めているのですか。

堀田 まず複数のブランドを担当して、それぞれのブランドが持っている課題を理解し、それをデジタルツールやデータを使いながらどう解決していくか、結構細かいことを含めて取り組んでもらいます。

 その中で少しずつスキルが身についていくのですが、せっかく僕のチームに来たからには、何か一つ自信が持てる専門性を深めてほしい。ですから、デジタル広告とかコンテンツづくり、CRM、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)など、異なるプロジェクトに参加してもらいます。そのうえで、四半期に1度、1 on 1で面談しながらどの専門性を深めたいのか、本人の希望を聞きます。やはり、本人が面白い、やってみたいと思うことでないと伸びません。そうやって、一人ひとりのスキルを高めながら、チーム全体のケイパビリティを上げていく感じですね。

 ビジネス環境はたえず変化しますし、テクノロジーはどんどん進歩しますから、組織として新たに獲得すべきスキルが増えていきます。そこがDX推進者の悩みの一つかと思いますが、どう向き合われていますか。

阪 茉紘
Mahiro Saka
プレイド 執行役員

堀田 たしかに、そこは難しいですよね。誰かが新しい課題に取り組む時や、新たなテクノロジーを使うプロジェクトなどは、僕自身が最初から関わるようにしています。僕が全部できるわけではないですけど、関わることで社員の適性が見えてくるし、テクノロジーを使う勘所もわかってきます。

 それで、この人に任せられそうだなと思ったら、どんどん任せます。僕がいつまでも関わっていると、社員はうっとうしいでしょうから。

 頭ではわかっていても、リーダーが実際にそういう行動を取るのは簡単なことではありません。2020年からは、社内でのデータの民主化にも取り組み始められましたね。

堀田 前々から社員一人ひとりがもっとデータ活用できるようにしなきゃいけないと感じていたのですが、コロナ禍になって店舗に来る人が極端に減り、お客様のことを知るにも、お客様との関係を維持するにもデジタルが生命線になったので、本腰を入れて取り組むことにしました。

変革のDNAをデジタルで増幅させる

堀田 多くの人は結果のデータを重視しがちです。何が売れたか、どれだけ売れたかといったデータはみんなよく見るのですが、そこに至るお客様の行動や心理はわかっていないので、結局、顧客理解が足りていませんでした。

 KARTEを使えば顧客理解を深められます。しかし、十分に使いこなせるのはごく一部の人だけでした。そこに課題感を持っていた社員が勉強会を立ち上げて、データの分析・活用に取り組む人が増えました。

 一方、会社としてはクラウドを使って誰でも必要なデータにアクセスできる環境を整備したり、スマホアプリの活用状況を分析するプロジェクトを始めたりしました。御社はSQL(データベースを操作するための言語)の習得研修を含めて、僕たちがデータの民主化を進めるために必要なアクションを一緒に考え、進めてくれているので、心強く感じています。

 これまで、どんな成果がありましたか。

堀田 KARTEやSQLについて自主的に学ぶ人が増えたこと自体が、大きな成果です。やはり、自分で手を動かして、仮説を立て、検証しないと顧客理解は深まりません。自分でデータを活用するようになってお客様の行動やその意味がわかったとか、施策への反応がダイレクトに伝わってきて接客しているのと同じ感じがするといった声が上がっています。

 データの民主化に取り組み始めたことで、お客様を理解するために足りないデータがあることもわかってきました。リソースと時間をかけてでもお客様を正しく理解できるようにしないと、今後の成長はないと思っています。

中野 研修のご支援をしていて、パルの皆さんが新しいスキルを学ぶことにとても積極的だと感じます。先ほど堀田さんがおっしゃっていたように、お客様のことを知りたいというモチベーションが高いからだと思います。

 たとえば、SQLがわかると(商品を推奨する)レコメンデーションエンジンがどういうロジックで動いているかがわかってきて、よりお客様に合わせた施策のイメージが湧きやすくなります。アパレル業界の場合、デジタルに特化した人材が多くないことが課題になるケースが多い印象ですが、御社では、そのような形で顧客理解と顧客に合わせた施策のレベルが上がりつつあると感じます。

中野康平
Kohei Nakano
プレイド Sales Manager

堀田 1人に焦点を当てたn1分析を進めて、そのお客様に合った商品をお薦めしたり、コンテンツをご提供したりといったパーソナライゼーションを進めないと、顧客体験価値を上げていくのは難しいと思います。逆にそこを進化させることによって、ビジネスチャンスが広がります。

 だからこそ、効率化できるところ、精度を上げられるところには、どんどんデータを活用していきます。そのうえで、パーソナライゼーションするための最後のひと工夫に、社員一人ひとりが創造力を発揮してほしい。

 何もない白紙の状態で創意工夫しなさいと言うと、一貫性がない顧客体験を提供してしまうことになりかねません。そこで、創業50周年を迎えたのを機にパルの根本的な価値観を言語化した「PASSIONとLOVE」というコーポレートメッセージを定めました。社員一人ひとりがファッションやお客様への情熱と愛を持って行動しよう、創意工夫に挑戦しようという思いを込めています。創造力を発揮するための拠り所、ブランド体験の統一性を担保するためのメッセージです。

 組織としてデジタル変革に取り組む時には、メンバーが共鳴できる価値観やメッセージが欠かせません。

堀田 当社の創業者が好んで使う「蛻変」(ぜいへん)という言葉があります。セミが幼虫からさなぎ、成虫へと変わる様を表す言葉です。市場環境やお客様に合わせて変化し続けるのが当社のDNAであり、デジタルを使って変革を促すのが僕の役目です。

 変革を恐れない企業には、軸となる思想があることがよくわかりました。

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