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バランスの勝利
「資本主義は勝利した」
旧東欧の共産主義体制が相次いで崩壊を始めると、それを待っていたかのようにこうした声が上がった。そして、あたかも信仰のように広く浸透していった。
このため我々は、それがどのような影響を持つのかについて、わからなくなってしまった。影響はひどくマイナス、いやそれどころか危険ですらある。「資本主義は勝利した」という考えそのものが間違っているからだ。
私の見るところ、我々の社会では産業界と政府の関係全体が混乱してしまっている。これを何としても解決しないことには、かつての東欧と同じような状況に陥るだろう。
資本主義はけっして勝利などしていない。勝利したのはバランスである。旧西側世界の人々はバランスの取れた社会で暮らしてきた。民間、公共をはじめ、あらゆるセクターに活力がみなぎっているのだ。
他方、旧共産圏の社会は完全にバランスを失っていた。組織的な活動はすべてにわたって、国家によってコントロールされ、国家に対抗できる勢力は皆無に等しかった。旧東欧ブロック崩壊の兆しが最初に現れたのは、国家に対抗しうる勢力(カトリック教会)が生き残っていたポーランドにおいてだった。
「資本主義は勝利した」との考えがもとで、旧西側の社会はバランスを失いつつある。この傾向は、イギリスとアメリカでとりわけ深刻だ。バランスが崩れて民間セクターの力が強まったとしても、よりよい社会が実現するわけではない。