古屋 たとえば、自分のやりたいことをアウトプットして、周りの人たちの反応を見てみる。面白い、価値があると思ってくれれば、応援してくれる人や同じ道を志す仲間が増えるかもしれません。目的を持って探ってみたり、試しに何かをやってみたりするのもいいでしょう。川口さんがサイバーブートキャンプに参加されたのが、そのいい例です。

 情報化社会だからこそ、そのように実際に動いて手に入れた体験の価値が高まっているのです。

 そして、大事なのは体験したことを振り返り、意味付けすることです。自分の体験にどんな価値があるのか、キャリアを形成するうえでの意味を探り、言語化するステップです。これをしないと、自分の価値を表現できず、誰かに伝えることもできません。

 一人で内省して意味付けするのはかなり難しいので、私は自己開示のキャッチボールをお勧めしています。関係資産を築いた人に自分の体験や悩み、疑問などを投げかけて相手の意見を聞いてみる。それに対して自分の考えを述べる。これを繰り返しているうちに、自分の頭の中を整理できたり、新たな気づきを得られたりするはずです。

川口 私も周りの人たちからフィードバックをもらって、気づいたことがたくさんあります。振り返って言語化するのはとても大事ですね。

 私たちは一つのプロジェクトが終わると、1 on 1での振り返りを必ず行うのですが、いまはマネジャーとしてメンバーにフィードバックを与える立場にあります。メンバーの意味付けを支援するうえでのポイントは何かあるのでしょうか。

古屋 ポイントは相対化することです。3つの視点で相対化すると、意味付けがしやすいと思います。

 1つ目は、時間軸での相対化です。たとえば、ある経験が次の仕事で役立たなかったとしても、5年後、10年後にとても役に立つことがあります。長い目でキャリア形成を考え、バックキャストする視点を持つことです。

 2つ目は、マーケット軸での相対化。自分の経験や知識、その蓄積による専門性が、マーケットにおいてどれだけのバリューがあるかという視点です。たとえば、自分の会社だけで役に立つ専門性をどれだけ深めても、マーケットでは価値を認められません。

 3つ目は、私は半径5mの相対化と言っているのですが、友人・知人や同期、同世代の中でユニークな経験なのかどうかということです。

人を活かす「ハイパーメンバーシップ型組織」

川口 私はいま、自分のキャリア形成よりもメンバーがどう成長して、チームとしてのパフォーマンスをいかに上げていくかに関心の比重が移っているので、古屋さんから伺った3つの視点はとても参考になります。

古屋 若者は、キツすぎる仕事だけでなく、緩すぎる職場にも不安を感じる傾向が強くなっています。仕事が緩すぎると、このままでは成長できないと思い、キャリア安全性に不安を感じるのです。

 マネジャーや上司は、自己開示のキャッチボールで若者がどう感じているかを率直に聞けばいいと思います。「本音を言いなさい」と指示しても、誰も本当のことは言いません。ですから、一投目はまずマネジャーから投げることです。「僕はいまのチームの仕事について、こう思っている」「マネジャーとして、こんなことに悩んでいる」などと、自己開示するのです。それによって、相手の心理的安全性が高まり、率直な気持ちを語ってくれると思います。

川口 対面でもリモートでも、意図的にカジュアルな対話の機会をつくってキャッチボールし、メンバー一人ひとりが発揮する価値を最大化するサポートをしていきたいと思います。

古屋 それは素晴らしいことです。これからの日本は、人口動態に起因して人手不足が深刻化します。ですから、若手人材は日本共通の貴重な宝です。

 私は「ハイパーメンバーシップ型組織」を提唱しているのですが、これからの企業は人材を正社員として抱え込むだけでなく、多くの人たちとの関係資産を活かすことで持続可能性が高まると考えています。

 副業・兼業で仕事に関わっている人、会社を卒業したアルムナイ、インターンとして働いたことがある人などを関係社員と捉えて、継続的に関係を維持し、新たなプロジェクトを立ち上げた時などに参加してもらうのです。関係資産を築いている人であれば、労働市場で一から探すより早いですし、プロジェクトへの貢献度も高いと思います。そして、共通の宝である人材がいろいろな会社で活躍してくれれば、日本全体の生産性が上がるはずです。

*KPMGコンサルティングでは、自主的な成長機会として、社員がみずから研修の目的と効果を立案し、海外での研修を企画する「セルフ企画型海外短期研修プログラム」など、多様な学習機会を提供している。また2021年より、アルムナイコミュニティを立ち上げ、卒業生同士や在籍社員との情報交換やコラボレーションを行える場づくりを目指している。
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