川口 私と同年代の人ですが、入社当時からずっとお世話になっていて、コンサルタントとしてのいろはから教えてもらいました。
古屋 コンサルティング会社は、人間関係がドライなイメージがあります。
川口 他社についてはよく把握していませんが、KPMGコンサルティングは一つのプロジェクトが終わっても、メンバー間のインフォーマルな関係が続くことが多いですね。私の場合、いざという時に相談できる師匠がいることが精神的な安心材料になっています。
古屋さんは著書の中で、ロールモデルを見つけることが難しい時代だとおっしゃっていますね。
古屋 終身雇用・年功序列の日本型メンバーシップ雇用が機能しなくなり、20代で半数以上が転職する時代です。副業・兼業も珍しいことではなくなりました。単線型キャリアの時代ではなく、多様性が高まったのでロールモデルを見つけようとしても難しいのです。
私は大阪商工会議所の若手社員キャリアデザイン塾の塾長をしているのですが、大手から中小企業まで約50人の若手社員に「会社の中にロールモデルになる人はいますか」と尋ねたら、手を挙げたのは3人だけでした。

Shoto Furuya
リクルート
リクルートワークス研究所 主任研究員
私には研究者として私淑している師匠が3人います。私が勝手に弟子を自任しているだけで、相手がどう思っているかはわかりませんが、時に叱られながらも、いろいろと相談に乗ってもらっています。ロールモデルが自動的に見つかる時代ではないので、若手は自分から積極的に動く必要があります。
川口 仕事からプライベートまで完全に私淑する必要はないわけですから、仕事ならこの人、子育てではこの人、趣味はこの人といったように、自分が進みたいと思っている方向の一歩先を行っている人を師匠にすればいいと思います。
古屋 おっしゃる通り、全人格的にその人をロールモデルにする必要はないんです。いまはSNSで複数のアカウントを持ち、アカウントごとに投稿内容を変えたり、自分のキャラクターを使い分けたりする人がいます。場面ごとに“仮面”をかぶるのは不誠実だと捉える人がいるかもしれませんが、私の研究から複数のキャラクターで人生を過ごしているほうが幸福度が高く、キャリアの満足度も高いことがわかっています。
仕事でもプライベートでも、一人の人がいろいろな役割を持っているわけですから、自分の中に複数のペルソナが存在することは不誠実でも、不自然でもないと思います。むしろ、そういうファジーな部分を含めて自分という存在を認め、全体をトータルでマネジメントする発想があっていいはずです。
タイのサイバーブートキャンプで得たもの
ーーKPMGコンサルティングは、“Lifelong learning(生涯学習)”を推奨し、グローバル共通の学習プラットフォームで自発的に学習し続けることを後押しするほか、国内外のオンライン/オンサイト研修を提供し、個々人が自主的に成長機会をつくっていく文化や制度(*)があるそうですね。
川口 私も2023年にみずから手を挙げて、タイで開かれたサイバーブートキャンプ(Cyber Bootcamp)に参加しました。アジア南太平洋地域のKPMGのメンバーファームから、サイバーセキュリティに関わっているメンバーが集まり、知見を共有したり、ネットワーキングしたりすることが目的のイベントでした。

Sofu Kawaguchi
KPMGコンサルティング
マネジャー
17の国・地域から約70人が集まって、3日間英語で議論し、交流を深めたのですが、あらためてKPMGがグローバルな組織であることを実感できましたし、各国・地域のサイバーセキュリティ事情を知ることができ、とても刺激的でした。もっとグローバルな連携を深めて、価値の高いサービスをクライアントに提供していこうという意欲が湧きました。
古屋 みずからのキャリア形成に関して、日頃から心がけていることは何かありますか。
川口 スキルや経験の掛け算で、自分の稀少価値を高めることです。もともとSEとしてITのスキルを身につけ、コンサルタントになってからサイバーセキュリティの知見を蓄えてきました。いまは、マネジャーとしてチームをマネジメントする力を磨いています。IT×サイバーセキュリティ×チームマネジメントと、掛け算できる要素が増えるほど稀少価値が高まります。
自分の稀少価値が高まれば、クライアントから「この仕事は川口さんに任せたい」と言っていただける機会が増えると思いますし、そういうふうにバイネーム(個人名)で声をかけていただいた時に、私はこの仕事に一番のやりがいを感じます。
古屋 簡単にロールモデルが見つからない中で、いまの若者は自分でキャリアをデザインしなければなりません。情報化社会ですから、キャリアに関して誰もが多くの情報を持っているのですが、成長するには川口さんのようにみずから行動することが大事です。
行動する癖がついていない人に私が勧めているのは、小さな一歩を踏み出す「スモールステップ」を実践することです。