企業文化を構築するための6つの指針

 筆者の最初の職場は、ヘルスケアソフトウェアの特化型企業HBOCだった。ある日カフェテリアにいると、人事部の女性が粘着テープを手に入ってきて、壁にポスターを張り始めた。ポスターにはロイヤルブルーの文字で、次のようなコーポレートバリューが掲げられていた。「透明性、尊重、高潔、誠実」──。翌日、ポスターと同じ文言が書かれた財布サイズのプラスチック製カードが我々社員に配られた。この文言に沿った行動ができるように、ということだった。翌年、HBOCの経営陣が詐欺罪や共謀罪など17の罪で起訴された。その時になって初めて、この会社の本当のコーポレートバリューが何だったのかを我々は知った。

 ピーター・ドラッカーが言ったとされる言葉に「企業文化は戦略を朝食として食べてしまう」というものがあるが、それ以来、企業文化のマネジメントこそが会社の成功のカギを握ると広く信じられてきた。それなのに、自社の企業文化をきちんと明文化し、その文言を社員が職場で実感し行動指針とするまでになっている企業はほとんどない。そこで次のような疑問が生まれる。企業文化が戦略を朝飯にしてしまうのであれば、我々はその朝飯をどのように調理すべきなのだろうか──。

 筆者はこれまでの20年間、大学教授として、そして企業へのアドバイザーとして、いろいろな組織の企業文化を研究してきた。そして、社員の行動を左右するような企業文化をつくり上げようと苦心する企業や、その秘訣を見つけて成功したように見える少数の企業を調べてきた。本稿ではそれらの経験をもとに、6つの簡単な指針を示す。企業文化の構築という難題に取り組むマネジャーの一助にしてほしい。