日本郵政グループ特有の営業体制の複雑さが“裏目”
そもそも、かんぽ生命がコーチネクサスジャパンにコーチングを依頼したのは、個人向けの保険営業社員に行動変容を起こすためだ。不適正募集問題を教訓にして、顧客本位の業務運営に主体的に取り組めるよう、互いへの敬意や理解を伴わない上意下達の風潮などを変えようとしたわけである。
背景には、深い事情があった。
前述したように、かんぽ生命の個人営業体制は、日本郵政グループ特有の“複雑さ”をはらむ。
郵政民営化による分社化以降、かんぽ生命は個人向け保険営業の大部分を日本郵便に業務委託してきており、個人宅に訪問する約1万人の営業社員(コンサルタント)も日本郵便の社員である郵便局員なのだ。しかも不適正募集問題発覚前のコンサルタントは、ゆうちょ銀行からの委託業務である投資信託の販売なども担い、多忙だった。
それゆえにかんぽ生命はガバナンスを十分に利かせることができず、「『お客様の人生を保険の力でお守りする』という社会的使命を伝え切れないまま、小手先の数値目標を追わせてしまった」(谷垣氏)。結果的に不適正募集問題を起こし、日本郵政グループ最大の強みである「親近感、信頼感、安心感」を傷つけた反省は大きい。
一方、このままでは個人営業の立て直しに支障が出るとの懸念も生じた。日本郵政グループの強みを回復しようと保険の営業管理体制などを整備しても、コンサルタントを直接マネジメントできない状態では、それらを浸透させるのに時間がかかりすぎるからだ。
そこでかんぽ生命が2022年に決行したのが、営業体制の再構築だ。
マネジメントの強化や教育の充実を図ろうと、コンサルタントの活動拠点数を623に集約。コンサルタントについてはかんぽ生命への出向を実施し、かんぽ生命の支店内に新たに設置した「かんぽサービス部」の所属とした。業務内容も、生命保険の提案などに限定。まさに大改革である。
しかし、一部コンサルタントにとってはこの大改革が、かんぽ生命に対する不信増大の要因となってしまった。
「かんぽ生命に出向しても、活動拠点は郵便局のまま。リポートラインが曖昧になりそうで不安だ」「かんぽ生命が、営業現場に寄り添ってくれるかどうか疑わしい」「だいたい、多くのコンサルタントが人事処分を受けたことからして納得できていない。皆、かんぽ生命に提示されたノルマを達成するために頑張っていただけだ」
改革当初、グループ内に飛び交っていた代表的な不満や不安の声をまとめると、こんな具合である。
「昨年、社長に就任する前に、勤務経験のある郵便局などへ現状を聞きにいったのですが、その時でさえ、まだまだ会社への不信感は大きかった。私の信条は、『真実は現場にある』。大ごとが起きているのだとあらためて認識し、気を引き締め直しました」(谷垣氏)
そうしたかんぽ生命の困難の打破を後押しするために、白羽の矢を立てられたのがコーチネクサスジャパンだ。