半年かけてオーダーメイドしたコーチングプログラムの特異性
コーチネクサスジャパンが評価された最大の理由は、顧客企業の課題や目的を細かく分析したうえで、適切なコーチングプログラムをオーダーメイドしている点にある。単に、定型メソッドをパッケージ化して、各社に提供しているわけではない。
「かんぽ生命のプログラムも、事業構造やここ数年で行ってきた変革の内容、顕在的・潜在的な問題点、今後の展望などを詳細に分析しながら半年がかりでつくり込み、2022年初夏に満を持して実行に移しました」
コーチネクサスジャパン代表取締役エグゼクティブコーチの福留浩太郎氏は、実効性の高いコーチングを展開すべく、かんぽ生命で行った入念な準備についてそう明かす。

代表取締役エグゼクティブコーチ
福留浩太郎氏
具体的には、支店長を中心としたコーチングから着手しており、プログラムは大きく4つの項目で構成した。(1)76人の支店長全員に対する集合研修(月に1度実施)、(2)支店長に対する個別のコーチングセッション(隔週で1時間ずつ実施)、(3)支店長と、かんぽサービス部を牽引するかんぽサービス部長による1on1(一対一)コミュニケーション(月に1度実施)、(4)社内アンケート調査(サーベイ)である。
なかでも組織活性化の核となったのが、可能な限り対面で行っているという(3)の支店長とかんぽサービス部長による1on1だ。かんぽ生命最大級の懸案事項といえた「営業社員のかんぽ生命に対する不信感」をなくすために、各支店長がかんぽサービス部長一人ひとりの話に耳を傾ける「傾聴」の場が重要だったことは言うまでもない。
しかし、営業現場に不満や不安が渦巻く中では、いざ面談の場を設けてかんぽサービス部長と向き合っても、会話が成立しないことすらあったという。「実を言うと、1on1の実施を躊躇する支店長も少なからずいらっしゃいました」(福留氏)
それでも粘り強く1on1を継続させ、さらに支店長がかんぽサービス部長から本心を打ち明けてもらえるよう的確なサポートまでしていけるところに、コーチネクサスジャパンの独自の強みがある。
端的に言えば同社は、一連のプログラムの各所にさまざまな仕掛けを施し、それらを複合的に作用させることで、その強みを生み出している。
たとえば1on1に関しては、実施予定日時について支店長から必ず報告を受けられるようにするなど、厳しい管理体制を敷いている。1on1を確実に継続させるための仕組みで、面談が滞りそうな場合は、理由を共有してもらい、適宜必要なケアを行っている。

1on1実施時に支店長が直面する困り事は、(1)の集合研修や(2)の個別セッションでフォローすることが多い。最たるものが、相手の本音を引き出す各種手法の伝授である。
「沈黙を待つ」は、まさにその手法の一つだ。「沈黙を恐れる人は多いのですが、沈黙は相手が何かを考えている途中だから生じるのであり、必ずしも悪いことではありません。腹を割って話し合える関係性を築くには、自分の考えをくまなく伝えるより、まず相手が考えをまとめて口を開くまで待つことが大切です」(福留氏)
つまり、傾聴がいかに重要かということである。
相手の信頼を獲得するための第一歩ともいえる傾聴は、コーチネクサスジャパンがかんぽ生命で、コーチング実行初年度に掲げていた一大テーマでもあった。何としてもその本質を組織に根付かせたいという思いは深く、自分の話を聞いてもらうというのがどういうことか、個別セッションを通して支店長に体感してもらっていたという。
「リポートラインに属さない我々が相手だからこそ、気軽に胸の内を明かせるのでしょう」(福留氏)。個別セッションは、傾聴の効きめを負担なく実感できる、うってつけの場といえた。
(4)のサーベイも、初年度は傾聴重視のスタンスをにじませた質問を並べていたというから徹底しているが、実際、傾聴のメリットは“波及効果”も高い。
傾聴力が高まれば、おのずと相手の変化にも敏感になる。福留氏によれば、かんぽサービス部長との1on1コミュニケーションで気づいた変化を支店長が言葉にして伝えると、成長に不可欠な承認欲求が満たされ、現場のモチベーションが驚くほど上がるという。
だが傾聴や承認の効用をそこまで説かれていても、なかなか行動で示せないケースは、ままあるものだ。コーチネクサスジャパンはそういった事態も見越しており、同社のコーチ1人に対し、支店長2人が面談に臨む1on2セッションも定期的に開催している。
言わば一国一城の主である支店長が、同じような立場に置かれた別の支店長の受け応えを、1on2セッションを通して客観的に見る意味は大きい。組織のトップとして時に孤独を受け入れざるをえない支店長たちが、互いの悩みを共有する場にできるのもまた、同セッションを開催するメリットだ。
「こういうタイプの部下には、こう対応すべし」……。コーチネクサスジャパンが提供しているのは、それら見せかけのコミュニケーションマニュアルではない。企業の価値や競争力を真に高めることを目的とした、行動変容促進の本質的なノウハウだ。同社の取り組みは、産業界で重要性が唱えられる人的資本経営の実践にほかならない。