「ニトリさんのように自社マーケットプレイスを開設する動きは、ほかの日本企業でも着実に広がっています。自社のブランドイメージや価値観、世界観に共感する企業に参画を呼びかけ、販売するアイテムやサービスの幅を広げることで、いっそうのブランド力の強化や、よりよい顧客体験の提供が実現するからです」
そう語るのは、ニトリも採用したマーケットプレイス構築のためのSaaSを提供する、Mirakl代表取締役社長の佐藤恭平氏である。

代表取締役社長
佐藤恭平氏
Kyohei Sato
慶應義塾大学総合政策学部卒業、 同大学経営学修士(MBA)。1998年SAPジャパン入社、eコマース(EC)事業の立ち上げに従事。ボストン コンサルティング グループ(BCG)戦略コンサルタント、日本マイクロソフト業務執行役員を歴任後、2016年SAPジャパンバイスプレジデント。2022年Mirakl代表取締役社長に就任。
Miraklは2012年にフランスで創業。2022年には日本法人を設立し、日本企業向けにSaaSの提供を開始している。
国内の売上高は2023年に対前年比約4倍以上、2024年上半期も対前年同期比約2倍以上と急増。「進出した2年前に比べ、自社マーケットプレイスに対する日本企業の認知や理解もかなり深まっていることを実感しています」と佐藤氏は語る。
それでも、欧米など海外に比べると、日本企業による自社マーケットプレイスの活用状況は「周回遅れ」だという。
「Miraklを基盤とする自社マーケットプレイスは、世界中で450社以上の小売業やメーカーなどが運営しています。米国のクローガーやフランスのカルフールといった巨大スーパー、米国の老舗百貨店であるメイシーズやノードストロームなど、名立たる小売業が採用しています。海外では、自社マーケットプレイスを運営し、ほかのセラー(販売会社)とのコラボレーションによって経済圏を広げていく動きが当たり前になっているのです」と佐藤氏は明かす。
では、なぜ日本では、自社マーケットプレイスの活用が遅れているのか。
理由の一つとして、「GAFAと同じような仕組みを『自分たちで構築するのは不可能』といった諦めや誤解があるのではないか」と佐藤氏は見る。
ニトリのようなニュースについても、「十分な資金力や技術力があるからこそ、実現可能なのだろう」といった先入観が根強く、他人事のように感じてしまう企業が少なくないようだ。
「実際には、すでに運営している自社ECサイトに当社のSaaS製品を組み込むことで、規模はさておき、メガプラットフォーマーと同じような自社マーケットプレイスを以前に比べて容易に構築できます。自社商品だけではなく、セラーの商品に関する情報や写真も自社フォーマットに従って表示され、注文の受付から在庫確認、代金決済まで、自社商品と同様に処理できるようになるのです」と佐藤氏。
しかも、注文内容はそのままセラーに送られ、発送もセラーが行うので、自社マーケットプレイスの運営会社が在庫を抱える必要はない。
そのため、品揃え不足を解消しながら、自社のブランドイメージや価値観、世界観にかなったセラーをどんどん迎え入れ、商品アイテム数を増やしていくことができる。自社マーケットプレイスを構築することのメリットは、ほかにもある。たとえば、オンラインのほか、リアル店舗のようなオフラインのチャネルとも融合し、顧客により利便性の高いサービスが提供できるようになることも、その一つだろう。