PEファンドが好調な理由

 この10年間、公開企業の取締役や幹部の間には、プライベート・エクイティ(PE)・ファンドからの熱い視線が気になる向きが増えている。特に、PE案件に時価総額200億ドル以上の大企業が含まれるようになってから、その認識は高まっている。

 実際、そのような視線が向けられることを歓迎する公開企業も現れ始めている。買収によって自主的に上場を廃止して非公開企業になれば、一財産転がり込む者もいるからである。

 しかし、ほとんどの公開企業にとって、一部のPEファンドが上げている高いパフォーマンスは、取締役や経営陣への挑戦ともいえる。PEファンドが買収した企業にはそれほどの利益を上げる力があるにもかかわらず、なぜ普通の公開企業の取締役や経営陣にそれができないのか。

 その言い訳は共通している。たとえば、金融市場は公開企業の四半期ごとの利益に執拗にこだわっており、対象外である非公開企業はその点で有利であるという。

 しかし、この議論はそこまでだ。公開企業が短期業績に集中することで長期的な成長計画の足が引っ張られるのは事実とはいえ、非公開企業に投資してキャピタル・ゲインを得るPEファンドも、最終的には金融市場の一時的な要求に応えなければならないからである。

 非公開企業への投資が成功する主な理由は、被買収企業の経営陣との一蓮托生、過剰な財務レバレッジ(総資本における負債の比率)、またIPO(新規株式公開)には高値が伴うからだと指摘する人もいる。しかし、どの言い分を検証しても、その正当性を証明できない(囲み「PEファンドにまつわる誤解を解く」を参照)。

PEファンドにまつわる誤解を解く

 上位のPEファンドの実績が優れていることを認める者でさえ、市場平均を上回る超過収益率は短期的な戦術や操作によるものだといぶかる向きが多い。はたしてその言い分は正しいのだろうか。

 そこで、PEファンドの財務業績に関する3つの反論について検証してみたい。

【反論(1)】
 PEファンドは主に被買収企業の経営陣と結託し、一般株主から株式を買い集める際に支払うプレミアム(上乗せ分)を支払わずに、公開企業を安く買収している。

 インディアナ大学教授のトーマス・ボルトン、ピッツバーグ大学教授のケネス・レーン、ボストン大学教授のスティーブン・シーガルらが2006年に実施した実証研究によると、この言い分の正当性は揺らいでいる。

 企業を買収して非公開化する取引について過去20年間以上にわたって調べたところ、当該企業の株価の平均利回り──その発表日における市場変動要因を排除──は、その時の経営陣が関係しているケースでは20.2%であったが、それ以外では13.6%であった。

【反論(2)】
 PEファンドは、被買収企業の貸借対照表上の有利子負債を増やすことで、市場平均を超える収益率を実現しているにすぎない。

 これも、実証分析によれば、逆である。ロバート・ピースが実施したアメリカのPE案件の利益についてその要因を分析したところ、業績の改善がD/Eレシオの上昇よりも2倍重要であった。

 最近のマッキンゼーの調査でも、対象となったPE案件の大半において価値創造を大きく左右しているのは、株式市場の高騰や財務レバレッジよりも、その企業が優れた業績を上げているかどうかであることが判明している。

【反論(3)】
 PEファンドは、被買収企業をすぐに公開させてIPOで大儲けしているだけで、その企業はその後、長期にわたって業績不振になる。

 この点については、ボストン・カレッジのジェリー・カオとハーバード・ビジネススクール教授のジョシュ・ラーナーによる実証分析について検討してみよう。1980年から2002年の間に行われたPE案件のIPOのうち、PEファンドが買収してから1年以内に上場された企業のケースは除いても、市場全体や同期間に行われたそれ以外のIPOよりも高いパフォーマンスを上げている。

 つまるところ、これらの反論はいずれも実証できない。むしろ、一貫して高いリターンを生んでいるという事実から導き出される結論は、PEファンドのマネジャーたちは、被買収企業の業績を改善する戦略を立案したり、業務プロセスを再設計したりしていたということだ。このような方法の一部は、非公開企業にのみ有効なのかもしれないが、そのほとんどは公開企業にとっても有効といえる。

 より根源的な問題は、PEファンドのパフォーマンスが必ずしも高い場合ばかりではないことを理由に、PEファンドに学ぶべき点があることを否定する意見が存在することだろう。

 シカゴ大学経営大学院教授のスティーブン・キャプランとマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン・スクール・オブ・マネジメント准教授のアントワネット・ショアーの研究によると、PEファンドの出資者の手に入る手数料を差し引いた後の利回りは、過去20年間以上にわたってスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500種指数を若干下回るものだった。