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AIとブランドマネジメント
ナイキほど象徴的なブランドは珍しい。スウッシュのロゴから「Just Do It」というスローガンまで、同社は有名なブランドを築くために必要な芸術的手腕を有している。
ナイキは、2020年にスニーカーのエア マックスの新作開発をオブビアス(AIを駆使してデザインするパリのアーティスト3人組)に依頼したが、その際、ナイキならではの特徴的なスタイルから大きくかけ離れたデザインにならないよう希望した。
オブビアスは、エア マックス1、エア マックス90、エア マックス97の画像を読み込ませて生成AIモデルをトレーニングし、このモデルを使ってさまざまなデザイン案をつくり出した。それから、幅広いファッションのトレンドに関する自分たちの知識や理解を活かすとともに、ナイキのマーケティング目標に沿うようにモデルの微調整を繰り返し、斬新さとブランドイメージを絶妙なバランスで併せ持つデザインを完成させた。このデザインには、いかにもエア マックスらしいスタイル要素が数多く組み込まれているが、それらと新しい色、形、パターンを融合させることで、新鮮でクールな印象も生まれている。限定モデルのシューズは、発売後10日も経たないうちに完売した。
マーケティング担当者がブランドマネジメント活動をよりよく進めるためにAIで実験を始めていることは驚くに当たらない。しかし、A/Bテストや検索ワードの入札といった他のマーケティング手法と異なり、ブランドマネジメントはある特別な目的のための機能を繰り返し実行すればよいというものではない。
ブランドマネジメントは長い間、クリエイティブ人材の専門分野と考えられてきた。その中には、ブランドストーリーを作成して伝える、ブランドの競争上の地位を考慮して商品やサービスを開発し価格を設定する、顧客関係を管理してロイヤルティを築くなど、企業の評判とイメージを形成するためのいくつもの過程が含まれる。
ブランドとは、品質、スタイル、信頼性、購買意欲を顧客に約束するものである。AIだけでは(少なくとも当面は)その約束を果たすことはできない。しかしAIは、顧客とやり取りするたびにブランドの印象を形づくることはできるのだ。また、商品デザインを含め、コストのかかる複雑なクリエイティブ業務も自動化できる。
ブランドと自動化を組み合わせるのは繊細な作業である。AIがブランドにとって不利に働く可能性もあるため、そのような状況でAIの導入を成功させるには、顧客と従業員の双方からの抵抗や反発に向き合わなければならない場合もある。
とはいえ、AIはブランドマネジメントに欠かせない要素になりつつある。成功のためには、ステークホルダーがAIをどのように捉えているかを理解し、不安を和らげるだけでなく彼らを熱心な支持者に変えるために何ができるかを考えなければならない。人がコントロールしている感覚を消したり、AIをブランドの顔にしたりといった過剰な自動化は避けるべきである。また、AIとクリエイティブ業務は相反するものではないことを常に心に留めておくべきである。