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風評リスクには共通の管理基準がない
ビジネス・リーダーならば、自社の評判(レピュテーション)がいかに重要であるか、十分認識している。肯定的な評価が確立されている企業には、優秀な人材が集まる。そのような企業の商品は付加価値が高いとされ、プレミアム価格を設定できる場合が多い。また、顧客はロイヤルティが高く、さまざまな種類の製品やサービスを購入する。
株式市場は、評判の高い企業の売上げは持続的に成長し、将来有望であると信じ、PER(株価収益率)は高くなり、時価総額も高く評価され、資本調達コストは低くなる。そのうえ、現在の経済下では、企業の時価総額の70~80%は、ブランド・エクイティ、知的財産、のれん(営業権)など、評価しにくい無形資産に由来するために、風評リスクの影響をことのほか受けやすい。
ところが、ほとんどの企業が、自社の評判の管理、特に評判を損なう風評リスクの管理をおざなりにしている。評判を傷つけかねない事態に対処するといっても、それはすでに表面化したものである。これでは、およそリスク・マネジメントとは言いがたい。それは危機管理、つまり被害を限定することを目的とした受け身のアプローチである。
本稿では、風評リスクをより積極的に管理するためのフレームワークを提供する。評判に深刻な影響を及ぼす諸要因について説明し、それらをきちんと定量化し、しかるべき管理をするための方法を探る。
このプロセスによって、自社の評判に影響する、すでに顕在化している脅威、ならびに潜在的な脅威を評価し、そのリスクは容認できるものなのか、それとも回避もしくは緩和するために何らかの対策を講じるべきかの判断を下すことできる。
監督官庁、業界団体、コンサルタント、そして個々の企業は、何年にもわたって、原材料価格からコントロール・システム、サプライチェーン、政治不安や自然災害まで、さまざまな分野におけるリスクの評価と管理について詳しいガイドラインを考案してきた。しかし、こと風評リスクについては、その定義や評価手法へのコンセンサスがないため、放置されたままである。
たとえば、2004年にアメリカのCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission:トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が提案した135ページにわたるエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)のフレームワークを例に引いて考えてみよう。
この委員会は、アメリカの会計士やCFOなどの専門職で構成された団体や協会の集合体であり、内部統制に関するガイドラインを発表している。ERMフレームワークは文字どおり、考えられるあらゆる企業リスクに触れているが、風評リスクにはまったく言及していない。