組織とは「約束」のネットワーク体

 組織図の変更、リエンジニアリング、インセンティブの再設計など、戦略を実行に移すためのツールはあらかたそろっている。また、高度なITシステムによって業績の変化を追跡することも可能だ。

 にもかかわらず、プロジェクトや仕事は停滞する。その結果、ビジネスチャンスを逸し、時には俊敏なライバルにそれを奪われる。

 戦略をきちんと実行できない原因は、たいてい同じである。つまり、最優先課題に社員たちが背を向け、積極的に参加しない、社員たちの不満が高まり、生産性が低下する、あるいは部門間の交流と連携が乏しく、ビジネスチャンスの獲得に出遅れるなどだ。

 とりわけマトリックス組織では、プロジェクトに取り組む際、責任の所在があいまいになりがちである。特に、直属の部下にとどまらず、異なる時間帯で働いているサプライヤーやパートナー、知識労働者や他国の同僚といったグローバル・ネットワークを管理しなければならない場合、戦略の実行はますます難しくなる。

 しかし従来の手法では、このような状況を改善できないだろう。考え方を抜本的に改めなければならない。

 組織とは、単にプロセスが連鎖したものでもなければ、組織図に描かれるような四角形や線の集合体でもない。組織の本質とは、さまざまな「約束」のダイナミック・ネットワークなのである。

 というのも、組織の至るところで、約束が交わされている。つまり、言わば一種の目標管理がなされているのだ。社員たちは、他部門の同僚、顧客、アウトソーサーといった外部の関係者とも約束を取り交わす。

 これら社内外の約束は、協調活動をつむぎ出す「糸」のようなものである。経営者や管理職たちを悩ませる問題の大半は、約束が守られなかったり、不備だったりすることによる。たとえば、戦略が適切に実行されなかったり、ライバルに先を越されたり、社員が積極的に参加しなかったりする原因は、すべて約束にある。