退職後にどうすれば充実した日々を送れるか

 数十年というキャリアを通して、重要な職業的アイデンティティを確立した人にとって、退職は非常に重大な、場合によっては苦痛を伴う転換期である。うまく切り抜けられる人もいるが、多くの人は苦労するものだ。

 例として、アイリーンとローレンスの対照的な経験について考えてみよう(いずれも仮名)。2人は異なる企業に勤めていた知識労働者である。筆者らは、彼らが退職後の生活に向けて準備している時期、また実際にその生活を送り始めた時期にインタビューを行った。アイリーンとローレンスをはじめ、筆者らが調査した多くの人のストーリーから得られた教訓は、この人生の大きな変化を楽に乗り越えるうえで役立つだろう。

 アイリーンは64歳の時、シニアテクニカルライターの職を辞し、夫とともにケープコッドの別荘に定住する生活へと切り替えた。夫はリモートで仕事を続けた。彼女は近くに住む兄とともに定期的に海辺を散歩するようになったり、絵画教室に入会したりもするなど、自分が退職者であるという事実にすんなりと馴染んだ。「もっと早くに退職すればよかったと思います。いまは平凡なことにも満足できるのです」と彼女は話してくれた。