従業員は間接費ではなく資本である

「従業員は会社の宝です」。これは、経営者のお気に入りの決まり文句である。ところが、このような美辞麗句と裏腹に、従業員を間接費と考えている経営者が依然多い。このような姿勢は危険である。

 人材は、長期的な競争力の「唯一の源泉」である場合が少なくない。また人材への投資に失敗すると、ビジネスの成功どころか、生き残り自体が難しくなる可能性がある。

 従業員を間接費と見なす姿勢がなくならない原因の一つとして、そう考えるしか選択肢がなかったという事情もある。リーダーシップ開発、職務設計、知識共有といった、人的資本マネジメント(HCM)に関連した投資がどのように業績に貢献するのか、測定する術がこれまで存在しなかったからだ。

 しかし、状況は変わっている。我々は過去10年にわたり、世界各地の研究者の協力を仰ぎながら、HCMの評価から業績を予測し、人材投資の指針とすべきシステムを開発した。

 我々が本稿で説明するフレームワークを採用すれば、業績の向上という面で、実践的な効果をすぐさま得られるだろう。しかも、従業員と業績の関係に注目することは、より広い意味で、人的資本投資の長期的な価値、さらには限定された短期的な目標にこだわることの愚かさを認識することにもつながる。

 人的資本の観点から、業績向上の要因を研究してきた結果、従来人事部門で広く用いられてきた離職率や、欠員補充に要する平均期間、教育研修の総時間数といった指標は、業績の予測にはほとんど役に立たないことがわかった。ただし、従業員1人当たりの教育研修費は例外である[注]

 我々はまず、組織開発や人事関連、経済学の過去の研究からHCMに関連するベスト・プラクティスを調べ、業績の決定要因と語られてきたものを抽出した。次に、さまざまな組織がそのような手法をどのように用いているのかを測定するため、従業員および経営陣に調査を実施した。

 これらの調査結果を総合することによって、製造業やサービス業、はては学校に至るまで、数十に上る組織におけるHCM活動を総合的に評価すると共に、どの評価指標がどのように業績と関連しているのかが明らかになった。