蘇寧(スニン)易購集団の失敗

 かつて中国の小売業界の先頭を走っていた蘇寧易購集団は、アジャイル戦略の申し子だった。多くの伝統的な小売業者が新たなテクノロジーや消費者の嗜好の変化への対応に戸惑う中、蘇寧はデジタルのトレンドやその他の機会に次々に飛びついた。

 蘇寧は2009年にeコマースを導入し、オンラインとオフラインを統合した小売アプローチの先駆けとなった。2012年になると、eコマースの巨大企業と競争すべく、ルーツである家電以外の複数のセクターに進出し、市場でのプレゼンスを大いに拡大し始めた。初期に買収した企業の一つが、マタニティ・乳幼児用品の大手オンライン通販業者の紅孩子(レッドベイビー)である。同社は「ウォルマート+アマゾン・ドットコム」になるという野心的な目標を掲げて、2020年までに300超の蘇寧の店舗と50カ所の蘇寧(スニン)広場(プラザ)を展開することを計画した。

 その頃中国では動画ストリーミングが成長し始め、大手企業を引きつけていた。その一つである百度(バイドゥ)は、2010年に動画配信サービスの愛奇芸(アイチーイー)を開始し、のちにそれを、2013年に3億7000万ドルで買収した別サービスであるPPSに統合した。

 蘇寧はすぐにこれに反応し、PPSと競合するPPTVに2億5000万ドルを投資して、アリババさえもしのぐ速さで同市場に飛び込んだ。2015年には、アリババが金融事業のアントグループを立ち上げたことに触発されて金融部門の蘇寧金融を開始し、2017年にはデジタルバンクを設立した。ほぼ同時期に同社はスポーツ事業にも進出して、サッカーチームの江蘇足球倶楽部に投資し、インテルナツィオナーレ・ミラノ株の過半数を取得した。2019年には、アリババが始めたオムニチャネルの小売アプローチに倣い、万達百貨の買収やカルフール・チャイナへの出資を行って、みずからもオムニチャネル小売業者になることを目指した。

 要するに蘇寧は、自社の小売事業をさまざまな補完セクターの事業と統合し、市場リーチを拡大し、データ収集能力を向上させ、顧客エンゲージメントを強化しながら、ビジネスモデルの積極的な多角化に乗り出したのである。

 しかし、絶え間なく変化する戦略で、同社が成功を収めることはできなかった。たび重なる赤字に見舞われた蘇寧は、2021年、経営合理化のためにコア事業以外の小売事業からの撤退を開始せざるをえなくなった。同社はいま、再び市場で主導権を握るための険しい道のりに挑んでいる。

 蘇寧の経験は、市場の変化に積極的に適応しようとする多くの企業に警鐘を鳴らす。同社はたえず事業環境の変化に反応し、新たな機会をつかむことによって、驚くべきアジリティ(敏捷性)を発揮した。その際、多くの学者や業界専門家が主張する従来からの常識を踏襲した。