優れたパーソナライゼーションとは何か

 スポティファイのアプリは、ユーザーが何を聴きたいかを知っている。AIを活用して、これまでに聴いた楽曲やポッドキャスト、オーディオブック、それらをいつ、なぜ聴いたかといった大量のエンゲージメントデータを処理しているからだ。

 スポティファイのライブラリは、ジャンル、時代、テンポ、ムードなどの膨大な特徴によってタグづけされている。これらのタグがあることで、ユーザーの鑑賞習慣に基づきプレイリストを作成できる。アプリはユーザーグループを対象にたえずマイクロテストを実施し、常に学習し続けている。

 スポティファイの成功の大部分は、パーソナライズされたレコメンデーションによるものである。ユーザー数と収益はともに過去10年で1000%増加し、ユーザー数は6億人以上、収益は140億ドルに達している。

 多くの企業はパーソナライゼーションを、より簡単に、より速く、より賢くできる技術に多額の投資をしているにもかかわらず、スポティファイのように高度なパーソナライゼーションを実現できずにいる。パーソナライズされたレコメンデーションの有効性を測定するため、世界中の消費者5000人を対象に行われたボストン コンサルティング グループ(BCG)の調査では、回答者の3分の2が最近、不適切、不正確、あるいはわずらわしいレコメンデーションを経験したと答えている。そのような好ましくない経験がありながらも、回答者の80%以上がパーソナライズされた体験を求め、期待していると答えた。

 ビジネスリーダーの対応は素早いとはいえない。BCGが世界の経営幹部1400人以上を対象に調査を行ったところ、85%のビジネスリーダーが2024年にAIへの投資を拡大する計画を立てていた。しかし、そのほとんどがパーソナライゼーションのためではなく、コスト削減の一環だった。これは間違いである。パーソナライゼーションこそが、新たなAIブームがもたらす最高の成果であり、最大の収益源になると筆者らは信じている。ただし、それはパーソナライゼーションに戦略的に焦点を当てる企業に限られる。

 残念ながら、ほとんどの企業は優れたパーソナライゼーションがどのようなものかを明確に理解していない。本稿では、この問題を解決したい。筆者らは数十年にわたり、何百もの大企業のパーソナライゼーションに関するコンサルティングに携わってきた経験をもとに、「パーソナライゼーション指数」を開発した。この指標は0~100のスコアで表され、企業が顧客とのインタラクションをパーソナライズするに当たり、顧客と暗黙のうちに交わした約束をどれだけ果たしているかを測定する。

 はっきりさせておきたいのは、パーソナライゼーションとは、メールに顧客の名前を自動的に挿入するような単純なものではない。真のパーソナライゼーションを実現するためには、大規模な体験を生み出し、続くインタラクションのたびに微調整を繰り返し、顧客が求めるものをより速く、安く、手軽に得られるようにする必要がある。