-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
デイビッド・ハーマン(David Herman)ハートマン 社長
ジェフリー F. レイポート(Jeffrey F. Rayport)マーケットプレース 創立者兼会長
スティーブン・ダル(Stephen Dull)VFコーポレーション バイス・プレジデント
ジョセフ・スキャフィド(Joseph Scafido)ダンキン・ブランズ CCIO
[ケース・ライター]
ポール F. ヌーンズ(Paul F. Nunes)アクセンチュア・インスティテュート・フォー・ハイ・パフォーマンス・ビジネス エグゼクティブ・リサーチ・フェロー
ウドラフ W. ドリッグズ(Woodruff W. Driggs)アクセンチュア グローバル・マネージング・ディレクター
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
ニューヨークでの試飲会
黒の蝶ネクタイ姿のウエイターたちが、ココナッツ・シュリンプとクラブ・ケーキを載せたトレーを手に会場を回っている。数十名のゲスト──主に20~30代の男性たち──がテーブルを次々に移動しながら、スコッチ・ウイスキーの能書きを比べて試飲している。
ボブ・リトルフィールドは、これらゲストたちに笑顔を振りまいていた。しかし、1時間前に注がれたウイスキーはいっこうに減っていない。味が気に入らないというわけではない。むしろ大のお気に入りである。何しろ、彼の会社の定番商品でもある。しかし、いま勤務中なのだ。
このような試飲会が今年だけでも、25都市でそれぞれ4回ずつ開催されることになっている。通常、社長みずからこのような小規模イベントのホストを務めることはないが、この試飲会は、たまたまニューヨーク出張と重なったのだった。
それに、3カ月前に入社したばかりのボブにすれば、CMO(最高マーケティング責任者)のマーケティング手法を間近で観察し、ふだんあまり触れ合う機会のない顧客層の反応を肌で感じる絶好の機会でもあった。ゲストの大半は、ニューヨークにある一流バーのバーテンダーたちで、そのほかクラブのオーナーや酒類販売業者も混じっていた。
ボブは長くなりそうな話を丁重に切り上げ、人が群がっているブラインド・テストのテーブルへと歩み寄った。イギリスのウイスキー・メーカー、グレンミディの新人ディスティラー(蒸留酒製造職人)が、ブレンド・ウイスキーやシングル・モルトのそれぞれの微妙な違いの見分け方をゲストに解説している。
彼はいま、地元のバイヤーと一緒に働いており、少々洗練さに欠けるものの、やる気満々で、まだ若いとはいえ、豊富な知識の持ち主のようだ。この仕事に就くまでにどのような教育を受けてきたのかはわからないが、いずれにせよ、タイン川沿岸地方(スコットランドの炭鉱地方)の訛りがまだ残っている。しかし、ボブは「ニューヨーカーの耳には魅力的に響くかもしれないな」と思った。