-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
ジョン W. ロウ(John W. Rowe)エトナ 執行会長
エドワード・ライリー(Edward Reilly)アメリカン・マネジメント・アソシエーション 理事長兼CEO
ジェイ A. コンガー(Jay A. Conger)クレアモント・マッケナ大学 教授
ダグラス A. レディ(Douglas A. Ready)ロンドン・ビジネススクール 客員教授
マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)エレクトロニック・データ・システムズ CEO
[ケース・ライター]
ジョン・ビーソン(John Beeson)ビーソン・コンサルティング 社長
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
後継者問題に後ろ向きのCEO
アスター・エンタープライズの非常勤会長、トム・キャロウェーは、周りに悟られないよう、受話器をそっと戻した。電話の相手は、アスターのCEOエドワード・ベネットである。サクセッション・プラン(後継者育成計画)の件で、またもや話がもつれ、物別れに終わってしまった。
キャロウェーは椅子をくるりと回転させて、ボストン湾の見事な景色を眺めた。彼のオフィスは、ペディグリー・インベストメント・パートナーズ・ビルの25階にある。4年前までCEOを務めていたピューリタン・バンコープのオフィスよりもやや狭いが、それでも大きなマホガニー製デスクを持ち込み、部屋の隅のテーブルには、彼のキャリアを象徴するかのごとく、ピューリタン時代の勲章ともいえる数々の楯が鎮座している。
キャロウェーは8年前、好業績を続ける消費財メーカー、アスターの取締役会に参加した。その後、ピューリタンを退職して、ほどなく会長職に就任した。ベネットとの仕事上の関係はすこぶる良好である。時には意見がぶつかることもあるが、そうした食い違いについても円満に収めてきた。
アスターの戦略と財務について、ベネットはいつもオープンかつ率直である。経営や組織の問題についてはやや手綱を締めすぎるきらいもあるが、結果を出し続けるベネットを見て、取締役会も彼の直観の赴くままに任せている。しかし、ことサクセッション・プランとなると、そうはいかなかった。
「自分を不死身だとでも思っているのか」。キャロウェーは心のなかで、こうつぶやいた。この件についての話し合いはすでに8カ月に及んでおり、ベネットは次回の取締役会でサクセッション・プランのプレゼンテーションを準備し、しぶしぶとはいえ議事進行役を務めることにようやく承諾した。
しかし今日電話で話した限りでは、サクセッション・プランそのものに大反対というわけではないにしても、いまだに気が進まない様子だった。これでは、いままでのやり取りを蒸し返すようなものである。