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株主価値の追求ははたして災いの元なのか
株主価値を重視する姿勢が、アメリカ企業を悩ませているさまざまな災厄の元凶である、というのが最近の風潮のようだ。
経営者も投資家も四半期業績ばかり追いかけ、長期的な成長に向けて投資しないことから、世間を騒がせた会計スキャンダルでさえ、株主価値偏重が事の元凶であるといわれる。また、期待に応えられず失敗した経営者が決まって言い訳に使うのが、「株式市場からの圧力」である。
しかし実際には、株主価値を重視するという原則そのものが間違っているのではなく、経営者たちがこれを正しく遵守できていないだけなのだ。その一例として、1990年代に経営者報酬として大半の企業で導入されたストック・オプションを考えてみたい。
ストック・オプションは、経営者と株主の利害を一致させることを目的としている。にもかかわらず、株主価値に貢献するような行動を促すことができず、むしろストック・オプションの仕組みがあだとなって、かえって株主価値は毀損されてしまった。
権利確定期間(権利付与日から権利確定日まで)が比較的短かったことに加え、利益を短期的に追求することが株価の上昇に大きく影響するという意識から、経営者は利益を操作し、早めに権利行使して売り抜けるという機会主義的な傾向を助長することになった。さらに、CEOは退職によってストック・オプションの権利確定日を前倒しできるという慣行も、短期志向に拍車をかけた。
言うまでもなく、90年代にはこのような問題が表面化することはなかった。なぜなら、当時は株価が2桁成長しており、投資家たちがことさらコーポレート・ガバナンスに関心を寄せることがなかったからである。
しかし、21世紀を迎えると状況は一変する。企業会計をめぐる不祥事が相次いで発覚し、株式市場の急落によって企業破綻の波が押し寄せた。そして、世間には企業への不信感が広がっていった。
これに行政はすぐさま対応した。特筆すべきは、2002年に成立したサーベンス・オクスリー法(SOX法)である。この法律によって、企業には厳しい内部統制が求められ、財務諸表の正確さについて経営者が直接責任を負うことになった。
しかし、SOX法をはじめ、さまざまな施策が講じられたにもかかわらず、短期業績を重視する傾向はいまなお根強い。一部の経営者は、自分たちには短期的に行動するしかないのだと自己弁護している。なぜなら、機関投資家の株式保有期間が短くなっているからだという。
実際、これら機関投資家の各銘柄の平均保有期間は、60年代には7年間だったが、いまや1年足らずである。株式を長期的に保有する株主がいなくなってしまった現在、長期的な利益を追求する意味がどこにあるのだというわけである。