気候変動の問題がガバナンス上重視されつつある

 ここ数年、気候変動とその影響に関するエビデンスが蓄積するにつれて、企業の取締役会のアジェンダにこの気候の問題を追加するよう求める声が劇的に高まっている。そして実際に、多くの取締役会がそれに耳を傾けてきた。

 デロイトの調査によると、S&P500企業の取締役会の38%が、2022年の委任状説明書(プロキシーステートメント)で気候変動リスクの監督体制を開示した。また、法律事務所オリック・ヘリントン・アンド・サトクリフは別の調査で、S&P500企業のうちCDP2023気候変動質問書に回答した367社に注目し、99%の企業が、気候関連の問題について取締役会の監督体制があると回答したことを明らかにした。

 これらの開示情報を見ると、取締役会が気候問題を監督するプロセスや活動の成熟度には、かなりのばらつきがあるようだ。筆者らは、取締役会による気候問題の扱いについて理解を深めるとともに、優れた取り組み──言わば気候ガバナンスが実際にどのようなものかを見極めるために、S&P500企業22社の取締役会でリーダーシップを執る20人の取締役にインタビューを実施した。すると、インタビュー対象者は全員、気候変動を極めて深刻な社会問題だと捉えていたが、それに対して企業に何ができるか、取締役会がどの程度の時間と労力を費やすべきかという点で、彼らの見解は大きく異なっていた。

 筆者らが行ったインタビューや取締役会との仕事を通じて、企業の気候アジェンダは一般的に経営陣が推進していることが明らかになった。取締役会の役割といえば、せいぜい監督機能の一つである。より広義の取締役会の責務を考えれば、それも無理のないことと思われる。

 だが、この役割の重要性は次第に増している。気候問題に関する議論が発展するにつれて、取締役会や経営陣には、企業の気候ガバナンスについて情報に基づく合理的なアプローチを取ることがいっそう期待されるようになるだろう。

 筆者らは調査結果を踏まえて、気候問題の意義ある監督の証となる8つの特徴を明らかにした。本稿ではそれらを解説するとともに、リーダーが気候問題を自社のガバナンスに取り入れる方法を決める時に検討すべき、一連の関連事項について見解を提示する。

1. 取締役会が、企業の気候プロファイルを熟知している

 取締役会が意義ある監督を行うためには、企業の気候プロファイルにおける異なる2つの側面を理解していなければならない。すなわち、企業がどのように気候や気候関連の問題に影響を与えるかということと、気候や気候関連の問題がどのように企業に影響を与えるかである。

 この2つを把握して初めて、取締役会は企業が直面する気候関連のリスク・責任・機会の全体像を描くことができる。そしてこの全体像があって初めて、気候問題が詳細かつ持続的に監督すべき最優先事項なのか、定期的なレビューを要する中程度の優先事項なのか、それとも基本的に経営陣に任せられる経営上の課題として、取締役会の通常のリスク、コンプライアンス、その他の監督活動に含められるのかを判断できる。