ほとんどの企業が
非財務指標の本質を理解していない

 過去10余年の間で、顧客ロイヤルティや従業員満足度など、財務諸表には表れないものの、利益に直接影響すると考えられる「非財務指標」を測定している企業が増えている。実際、これら非財務指標にはいくつかのメリットがある。

 第1に、業績がはっきりし、投資配分の健全性が論点となる前に、事業の現状と将来について、具体的な感触が得られる。第2に、戦略上の目標を達成するうえで必要とされる具体的な行動について、より有意義な情報が得られる。

 第3に、非財務指標はR&Dの生産性といった無形の価値を反映するため、投資家はこれを参考にすることで、当該企業の業績をより包括的にとらえることができる。これら無形の価値は会計上、資産に計上されないものもあるからだ。

 しかし実際には、これらのメリットを享受できている企業は少ない。なぜだろう。適正な非財務指標を特定し、きちんと分析し、これに基づいて行動するという基本サイクルが定着していないからだ。

 我々は、まず60社以上の製造業とサービス業を実地調査した。これに加えて、297人の企業幹部へのアンケート調査を実施し、先の調査結果に肉づけをした。

 驚いたことに、戦略を牽引する非財務指標は何か、これを特定する努力はほとんどなされていなかった。しかも、非財務指標が改善されると、キャッシュフローや利益、株価にどのような影響が及ぶのかなど、その因果関係についてもまったく無頓着であった。

 現在、多くの企業が、ロバート S. キャプランとデイビット P. ノートンの「バランス・スコアカード」(BSC)[注1]、アクセンチュアの「パフォーマンス・プリズム」、スカンディアの「知的資本ナビゲーター[注2]」といった、定型化された業績評価ツールを利用している。

 ところが、これらの指標の開発者たちが、たとえばバランス・スコアカードであれば、「『財務』『顧客』『社内プロセス』『イノベーションと学習』に直接影響を及ぼすアクティビティを特定し、追跡する際には、導入企業は個々にツールそのものについて深く掘り下げるべきである」と主張していることは注目に値する。

 怠惰なのか、関心が薄いのか、財務業績と非財務業績の関連性を見出せずにいる企業が少なくない。このような状況が改善されないため、私利私欲を追い求める経営者が、自社をよく見せかけたり、高額なボーナスを得ようと、自分に都合のよい指標を選んで、これを操作したりといったことが起こる。経営者や管理職がどこまで愚かで、嘘つきになれるかという事例をいくつか挙げよう。

 世界でも有数の某ISP(インフォーメーション・サービス・プロバイダー)は、年間にどれだけ特許情報をたくさん収集したかによって、管理職の成績を評価し始めた。他社の技術をライセンスしたほうがよいのか、その特許を活用できる可能性があるのか、開発コストは回収できるのかといったことはどうでもよかった。どのような特許が賞を受賞しているのかを知るためだったのだろうか。好業績を上げているライバルならば、いくつも受賞していることだろう。