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【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
ロバート A. エッカート(Robert A. Eckert)マテル 会長兼CEO
スティーブン F. ディヒター(Steven F. Dichter)トゥルーポイント・パートナーズ ディレクター
パトリック J. キャナバン(Patrick J. Canavan)モトローラ シニア・バイス・プレジデント
ケリー・サルコビッチ(Kerry Sulkowicz)ボズウェル・グループ 創立者
[ケース・ライター]
マイケル・ビアー(Michael Beer)ハーバード・ビジネススクール 名誉教授
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
カリスマCEOの早すぎる死
告別式は満席だった。故人すなわちジャック・ドナリーはまさしくカリスマであり、たくさんの人たちから、けっして愛されてはいなかったが、尊敬されていた。40年前、彼と妻のモイラ・ドナリーの結婚式を執り行った司祭がアイルランドなまりで、ジャックに追悼の辞を贈っているのを聞きながら、ステファニー・フォータスはこう思っていた。「彼の後を継ぐとなった以上、腹をくくらないと」
残されたモイラは、だれよりもショックを受けているに違いない。ジャックは仕事人間だった。彼女はずっと黙って従ってきたのだろう。しかしジャックは、やっと戻ってきたと思ったとたん、あっという間にこの世を去ってしまった。ただし、途方に暮れているのは、モイラと5人の子どもたちだけではなかった。みんな当惑しているようだった。
ジャックの早すぎる死を迎える直前、取締役会は彼の後任としてステファニーを指名した。彼女は、たくさんの人たちが自分の答えを待っていることを知っていた。
彼女は、モイラにお悔やみの言葉を言おうと前に進み出た。詮索好きな人々の目がいっせいに自分に注がれるのを感じた。ステファニーは彼女に「ご主人について、いろんなお話をうかがいました。彼から受け継いだものは全力を尽くして守ります」と述べた。とはいえ、彼の遺したものは、とてつもなく大きく、そして重たかった。
ボストンを拠点とするイノスタットは、ジャックが独力で築いた会社といっても過言ではなかった。彼は、外科用メスなどの手術器具を製造する地方の中小企業だった同社を、世界で最も有名な義肢装具および外科インプラント・メーカーへと成長させた。
いまや売上高は20億ドルを超え、ボストン、ロサンゼルス、アイルランドのダブリンで働く従業員の数は5000人を超えていた。また、世界各国に営業拠点があった。