環境に優しいビルは
間接費を削減し生産性を高める

 ピッツバーグの中心にあるPNCファーストサイド・センターは、総面積64万7000平方フィート(約6万110メートル)の敷地を誇り、そのビルの外観は何とも印象的である。事実、数々のデザイン賞、設計賞を受賞しており、モノンガヒーラ川を見下ろす壮観な建物の正面には曲面ガラス、スチール、石のオブジェが置かれ、敷地内にはいくつもの滝や噴水がある。

 建物の内部は明るく、開放感にあふれ、11フィート(約3.35メートル)の高さの天井、全面ガラスの窓、アトリウム、オープンフロア・プランといった特徴だけでなく、部屋別の温度調節機能など、あらゆるシステム技術が駆使されている。

 外見からは気づかれにくいことだが、このビルは「グリーン・ビルディング」、つまり環境に優しく、経済性にも優れたサステナブル・オフィスなのだ。フィラデルフィアにある同じ規模の標準的なビルよりも、1平方フィート当たりで見たメインテナンス・コストが20%低いこともほとんど知られていない(「コストと環境負荷を下げる」を参照)。

コストと環境負荷を下げる

 普通のビルと見かけは変わらないが、グリーン・ビルディングは環境負荷を減らし、より健康的で、内勤業務の社員たちの生産性を高め、間接費を削減するように設計されており、そのROIも高い。

 グリーン・ビルディングは標準的な建築物よりも環境負荷が小さい。整地は最低限に抑え、従来の新建材と異なる代替建材を用いることで天然資源を節約し、建設廃棄物も埋め立て地に運搬して廃棄するのではなく積極的に再利用する。

 グリーン・ビルディングの内部は、自然採光を使い、屋外が展望できるだけでなく、きわめて効果的なHVACシステム(heating, ventilating and air-conditioning:空調システム)と、ペンキや床材、家具にVOC(volatile organic compound:揮発性有機化合物)の排出が少ない資材を用いることによって空質を高めている。

 5、6年前までは、環境に優しい建物と聞くと、開け放したベランダで風鈴がチリンと鳴るなか、絞り染めの衣服をまとい、グラノーラをほおばりながら、ワラでできた敷物の上を裸足で歩く──。そんなイメージだった。

 今日その言葉が示すものは、間接費を削減し、従業員の生産性を向上させ、アブセンティーイズム(勤労意欲の低下による長期の欠勤)を減少させ、執務環境としての魅力を高め、従業員の離職率を低下させる。

 バンク・オブ・アメリカ、ジェンザイム(稀少疾病薬を中心とするバイオテクノロジー会社)、IBM、トヨタ自動車といった企業が、現在グリーン・ビルディングを建設中、あるいはすでにグリーン・ビルディングに移転している(囲み「米国トヨタ自動車販売のグリーン・ビルディング」を参照)。

米国トヨタ自動車販売のグリーン・ビルディング

 カリフォルニア州トランスにある米国トヨタ自動車販売本社の南キャンパス拡張工事は、「グリーン・ビルディングにまつわる神話を崩壊させることができたという点で、その推進運動にとってきわめて重要なプロジェクトでした」。アメリカ・グリーン・ビルディング協会の会長兼CEOであるリチャード・フェドリッツィは、このように指摘する。

 2003年に竣工した時点で、アメリカ最大のLEEDゴールド認証施設であった同社の南キャンパスは、南カリフォルニアにおける大型低層施設の基準建築コスト内で収まった。カリフォルニア州アーバインにあるLPAの建築士たちは、一般的なめどである1平方フィート当たり90ドルという予算に従って、3階建てオフィス・ビル2棟、延べ62万4000平方フィート(約5万8000平方メートル)の空間を設計した。

 各ビルは細長く、南北を向いているため、自然光を室内に最大限に採り入れることができる。各フロアの両側にはガラス張りの個室が並び、ここで働く社員の9割以上が自然光と外の景観を楽しめる。

 社員たちが入居した2003年3月以降、南キャンパスは間接費の大幅な節減を実現している。屋上に設置したソーラー発電パネル、きわめて効率的な空調機器、ガス冷房システムを組み合わせたことで、南キャンパスのビル群は同社のなかで比較対象となるサービス・ディベロップメント・センターよりも省エネ効率が31%高い。

 カリフォルニア州トランスでは、水利を他地域に頼っている。40エーカー(約16万2000平方メートル)ある南キャンパスの庭には干ばつに強い植物が植えられているため、水の必要量は、芝生を植えてスプリンクラーで散水する一般的な施設より60%も少なく済む。また構内の散水、建物の冷却、水洗トイレに再利用水を使うことで、飲用水を年間2070万ガロン(7万8000立方メートル)節水している。

 最大のメリットが出たのは操業面であった。「南キャンパスに移ってから、社員の定着率は非常に高まり、生産性も向上し、アブセンティーイズムも低下しました」と同社の不動産施設担当マネジャーのサンフォード・スミスは話す。「たとえばトヨタ・カスタマー・サービスでは、社員の欠勤率は14%減少しています」

 南キャンパスは、グリーン・ビルディングの見学ツアーで「外せない場所」になった。すでに数百という企業、組織、都市の幹部や関係者がこの施設を見学している。

 トヨタはまた、ウォルト・ディズニー、ニューヨーク・タイムズ、アメリカ空軍などの組織に、職場のグリーン化計画のベスト・プラクティスを提供している。