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取締役会から次のCEOが選ばれるケースが増えている
ある企業が自社の取締役会メンバーの一人をCEOに指名した場合、舞台裏で何か異例の事態が発生したに違いないと受け取られることが多い。この企業は、長引く混乱から抜け出そうと必死にあがいているのだろうか。前CEOが突然退任することになった、あるいは退任せざるをえなくなったため、最終的な後任が見つかるまで船の着実な航行を維持できる人材が、信頼の置ける取締役会のメンバーしかいなかったのだろうか。それとも、CEOの退任は通常の予定されたものではあるが、承継計画のプロセスで何かうまくいかないことがあったのだろうか。
これらはすべてありそうなことだ。しかし、この10年間にCEOの役割がますます複雑化したことで、別の理由から取締役を次のリーダーに採用するという企業が出現している。すなわち、それが最善の選択肢だったという理由である。
この選択を下す企業は増加の一途をたどっている。2018年から2023年までに、S&P500およびラッセル3000の構成企業全体で取締役からCEOに指名されたというケースは3倍になった。この期間、213人の新CEOが取締役会から選出されており(全体の10%に相当)、CEO就任前の役職としては、COO(32%)、部門CEO(16%)、事業部門長(14%)に次いで取締役が4番目に多い。
それだけではない。これら213人のCEOの大半は暫定的な役職ではないのだ。実際、取締役会のメンバーで暫定的ではない恒久的CEOに選ばれた者の数は、2018年から2023年の間に88%増加している。最近注目された事例としては、ゼネラル・エレクトリック(GE)のローレンス・カルプ、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のキャロル・トメ、ギャップのリチャード・ディクソン、ロッキード・マーチンのジェームズ・タイクレットが挙げられる。
取締役会からCEOを採用するのは、通例というよりはいまだ例外的なことだ。しかし、この可能性を検討すべき有力な理由がいくつかある。なかでも注目すべきは、取締役は多くの場合、内部の視点と外部の視点の両方を効果的に身につけられるということだ。内部者としては、その企業の文化、歴史、戦略に対する有益な感覚を持っており、外部者としては、その企業の既存の経営方法を変革しやすい。
だが、取締役会からCEOへの移行には細心の注意が必要である。うまくいかない要素が多いのだ。他の取締役は、ともに働いてきたといってもそれは特定の文脈上でしかなく、自分たちが考えるよりもその人物をよく理解していない可能性がある。その人物がその企業内部の仕組みをよく知っているものと過大評価しているかもしれない。また、内部候補者を差し置いて取締役を選ぶと、意欲を喪失し、辞めてしまう者すら出てきかねない。取締役からCEOへの移行は、適切な配慮がなされなければ、士気を低下させ企業価値を損ねるおそれがある。
それでは、取締役を次のCEOに選出することのリスクとメリットを正しく勘案するにはどうすればよいのだろうか。また、取締役のメンバーをCEOに指名すると取締役会が決めた場合、その選んだ人物が成功する確率を最大限に高めるにはどうすればよいのだろうか。
筆者らはこれらの問題を深く探究した。取締役会から採用されたCEOたちと、彼らを選んだ取締役会に広く話を聞いた。また、過去5年間にS&P500およびラッセル3000の構成企業の中で、取締役からCEOへの移行が行われた事例の分析も行った。