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企業の業績は、経営者の性格で決まる
今回は、アッパー・エシュロン理論(upper echelon theory:以下UET)を解説する。本連載でまずUETを取り上げる理由は、3つある。
第1に、世界の経営学における、その存在感の大きさである。UETは経営学で、すでに確立された分野だ。1987年に、現ペンシルバニア州立大学のドナルド・ハンブリックらがこの理論を提示して以来、40年近くにわたって、現実のデータを使った統計分析による検証が行われてきた(今回はハンブリックの名前を、何度も紹介することになる。UETを打ち立てた、世界的な経営学者だ)。UETの実証研究はいまもなお、世界中で続いている。
第2に、UETが経営者の「個性・性格」に注目していることだ。これから解説するように、UET、なかでも本稿で言うところの「第2世代のUET」は、「経営者の特性・個性が、企業の戦略・業績に多大な影響を与える」ことを説明する理論である(本稿では、「経営者」をCEO、代表、社長、取締役、執行役員のような企業経営に携わる人の総称として使う。特に企業トップについては、CEOの名称を使うことにする)。
言うまでもなく、経営者の頭のよさ、経営スキルなど、「経営者としての能力」は非常に重要だ。しかし、経営学の立場からは「優れた経営者は、優れた企業経営を行う」という命題には興味がない。なぜなら、それは同義反復であり、社会科学的に自明だからである。UETはそれを超えて、「経営者の個性・特性」や、その形成に関わる過去の経験が、その人の認知フィルターを形成して、企業経営に異なる影響を及ぼす、という主張を展開するのだ。
第3に、今後UETの重要性が、日本で特に高まると筆者が確信するからだ。その意味は本稿全体を読んでご理解いただきたいが、まずはシンプルな事実から提示したい。それは、「CEOが企業業績に与える影響が高まってきている」ということである。
経営者が企業経営に、何かしらの影響を及ぼすことは言うまでもない。しかし、企業の戦略・業績を決めるのは、他にも業界構造、培ってきた経営資源、技術、組織風土、好景気か不景気かなど、さまざまな要素がある。そして実は、近年の実証研究で、特にCEOという存在が企業業績に影響を及ぼす度合いが高まってきている、という証左が出てきている。
以下、理論の解説に入る前に、この点を説明しよう。
データが裏づける「CEOの時代」への移行
米国企業についてこの傾向を明らかにしたのが、先のドナルド・ハンブリックである。彼がジョージア大学のティモシー・クイグリーらと2015年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』(SMJ)に発表した論文[注1]では、マルチレベル・モデリング(MLM)などの統計手法を用いて、利益率、時価総額などの企業業績のばらつきが、業界構造などの「業界特性の要因」、技術力、ブランド、組織力など「企業固有の要因」、そして能力、経験、性格など「CEO個人による要因」からどのくらい影響を受けるかを、米国の30業界における1035社の1950年から2009年までの60年間にわたる長期時系列データを用いて分析した。