-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
取締役会の課題
オープンAIのサム・アルトマンCEOが解任され、わずか数日で復帰した先の騒動は、取締役会が直面する本質的な課題を浮き彫りにしている。経営陣を適切に監督しつつ、自主性に任せて力を発揮してもらうにはどうすればよいかという課題である。
ガバナンス業務に関する筆者らの研究では、下すべき意思決定のタイプやその重要性にかかわらず、ほとんどの取締役会が一貫してエンゲージメントの方法を変えていないことが明らかになっている。こうした柔軟性の欠如は、取締役会の有効性を大きく損ないかねない。特に、複雑で変化が激しい状況においては、そのおそれが大きい。たとえば、戦略的な大型買収などに際し、経営陣に判断を任せきりにする取締役会は経営幹部を孤立無援のまま放置することとなり、法的責任が問われかねない。
本稿では、ガバナンスにいかにアプローチすべきかについて順を追って紹介する。目的は、取締役会が状況により適した関係(筆者らは、これを「機動的」と呼ぶ)を経営陣と築くのを手助けし、それによって、取締役会が従来以上に受託者責任を果たすとともに、組織としての結果を改善できるようにすることにある。
筆者らはこの10年間、ガバナンスに関する教育プログラムを手がけ、そこに参加した取締役による400本のリポートの分析に基づいて、このアプローチ法を導き出した。これらのリポートの中で、取締役たちは自社の取締役会の業務と総合的な有効性を評価している。また筆者らは他の多くの取締役会メンバーにも、取締役会の業務についてインタビューと調査を実施した。
これらの研究に基づき、4つのエンゲージメントの方法(受動型、メンター型、パートナー型、コントロール型)を見出した。また、各タイプならではの特徴と、取締役会の有効性が最も高まるであろうエンゲージメント法と意思決定の組み合わせも特定した。株式所有構造の違いなどがあるため、取締役会の業務手法は少し異なるものの、業種と地域を超えて一貫したパターンが浮かび上がった。
まずは、取締役会と経営陣とのさまざまなエンゲージメント法について見ていこう。
4つのエンゲージメントの方法
取締役会が経営陣とエンゲージする方法は、完全な放任から厳格な管理に至るまで、多岐にわたる。それぞれのエンゲージメント法の成功を左右する重要なカギは、交渉や戦略的決定、その他のやり取りにおいて、経営陣と取締役会のどちらが重要な情報を保有しているのかにある。
受動型
これは、経営陣にほぼ全面的に決定権を認める方式だ。取締役会では、経営陣がすでに下した意思決定を取締役会に「売り込む」ためにプレゼンテーションを行うことが圧倒的に多い。検討案に関して、経営陣が代替案を提示することはまずない。
受動的な取締役会は通常、情報面で大幅に不利な立場にあり、情報に基づいて判断を下すのに必要となる重要な自社データにアクセスできない。その結果、法令遵守が関わる業務にかかりきりになりがちで、目標設定や戦略的な意思決定、資金配分を経営陣に一任することが多い。たいていは経営陣が提示する戦略案に異論をはさむことを控え、株主との関係やCEOのサクセッションなどの重大事項についても問い質そうとはしない。