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OPFOR常勝の秘密
「いつも違う敵と戦わなければならない組織」なるものを想像してみてほしい。しかも、敵よりも規模が小さく、装備も劣っている組織。人員と資源が縮小されていく組織。毎年リーダー層の3分の1が交代する組織。にもかかわらず、現れる敵を次から次へと打ち破っていく組織。
まさにそのとおりの組織がある。アメリカ陸軍のOPFOR(常設仮想敵部隊:Opposing Force)だ。2500人規模の旅団で、他の部隊が戦闘訓練する際に胸を貸すことを仕事としている。OPFORは、アメリカ陸軍が矛を交える相手のなかで最も手強い敵となることを目標としており、さまざまな環境や状況を設定し、各部隊と疑似対戦する。
毎月、4000人以上の戦力を保持する旅団がやってきては、入れ替わり立ち替わりOPFORに挑む。常設部隊であるOPFORは設定された状況に応じて、敵の正規軍、暴徒、準軍事部隊、テロリストなどの役を演じる。双方は徒歩で、戦車で、あるいはヘリコプターで対戦し、砲撃や地雷、さらには化学兵器にも対処する。
OPFORはカリフォルニアの広大な砂漠地帯に駐留しており、この勝手知ったる演習場で戦うため、常に地の利がある。とはいえ、BLUFOR(Blue Force)と呼ばれる、訓練を受ける側の部隊には、OPFORを上回る兵力と装備がある。また、その任務に見合った資源を各種携えており、質の高い情報もすぐに入手できる。兵や士官の経験も豊富である。そのうえ、相手の出方も予測がつく。なぜなら、OPFORは過去の戦闘訓練について、BLUFORの指揮官たちにあらかじめ教えているからだ。要するに、BLUFORはあらゆる点で優位でありながら、決まって勝つのはOPFORのほうなのである。
OPFORが常勝を続けている秘密は何か。それは「AAR」(事後検討:after action review)の活用にある。これは、ある出来事やプロジェクトから教訓を抽出し、他の場面に応用する手法である。このAARは、OPFORの母体、ナショナル・トレーニング・センター(NTC)に端を発し、過去20年間のなかで進歩してきた(囲み「民間の州兵がOPFORの代役を務める」を参照)。
民間の州兵がOPFORの代役を務める
第11機甲騎兵連隊(11ACR)は、すでに10年以上もOPFOR(常設仮想敵部隊)の役目を果たしてきた。同部隊はアメリカ陸軍における正規の旅団である。しかし現在の国際情勢にあって、動ける部隊はすべて動員されており、11ACRも例外ではない。
いずれは戻ってくる予定だが、それまでの間、11ACRを10年間補佐して戦ってきた州兵の部隊がOPFORの任務に就いている。この部隊は、軍の正規部隊であった11ACRよりもさらに大きなハンデを負っている。規模も小さければ、職業軍人ではなくパートタイムの軍人で編成されているからだ。彼らはふだんUPSやネクステル・コミュニケーションズなどの一般企業に勤めている。そのうえ最近では、訓練を受けるBLUFOR部隊の海外配置スケジュールが繰り上がったため、BLUFORの基地まで赴いて訓練することになり、地の利も失った。
それでもアメリカ陸軍は、代役の州兵部隊が中東に展開する戦闘部隊をみっちり鍛えていると評価している。州兵部隊がOPFORに従事して1年になったが、何とかその役目を果たせているのは、前任の11ACRから引き継いだAARを活用しているからにほかならない。
あるチームが別のチームにそっくりそのまま交代する。これ以上の変化はあるまい。代役としてOPFORの役目を果たしたという事実は、組織の学習・適応を促すAARの効果をまがうかたなく証明している。
AARミーティングが産業界に広まったのは、1998年、ロイヤルダッチ・シェルが、同社取締役の一人、退役将校のゴードン・サリバンの提案を受けて実験的に導入したことにさかのぼる。そして、コルゲート・パルモリブ、DTEエナジー、ハーレーダビッドソン、J.M. ヒューバーといった企業が、ベスト・プラクティスや繰り返してはならないミスを特定するためにAARを活用するようになった。
しかし、企業で実施されているAARのほとんどが、OPFORのAARに比べると、厳格さに欠け、形式的な一般論に終始している。結局、企画倒れ、投資の失敗、中途半端な安全対策が繰り返されている。逆に、効率的な近道、うまい解決策、堅実な方針などは広まっていかない。
AARを「過去の失敗を突き止める解剖」から「未来の成功をもたらす手段」へと変えるには、一度本家に学ぶ必要がある。OPFORでは、あらゆる行動を学習の機会として扱っている。「何をすべきか」だけでなく、むしろ「どのように考えるか」を学ぶのである。
企業内のAARは、報告書に綴じ込まれてロッカーの奥深くに眠る「情報資産」とやらを生み出すだけだが、OPFORのAARは「思考の素材」であり、必ず業務プロセスにフィードバックされなければならない。したがって、引き出された数々の教訓を実地に応用し、その効果を確認して、初めて学習されたといえる。