コラボレーションは必ずしもよいとは限らない

 各部門の総和を上回るグループ力を発揮できるのは、どのような時だろう。一つは、独立独歩の事業部門が、他部門との「境界線上」に転がっている未開拓分野においてイノベーションを志向し、成果を実現できる方法を見つけた時である。このことが、まさしくユナイテッド・テクノロジーズ(UTC)で起こった。

 UTC傘下の5大事業部門、航空宇宙産業のプラット・アンド・ホイットニーとハミルトン・スタンダード、ヘリコプター製造のシコルスキー・エアクラフト、商業用機器のオーチス・エレベーター、空調設備機器のキヤリアは、それぞれ業界のパイオニアとして長年にわたって新製品を世に送り出してきた。ところが、UTCは分権化を重んじる企業文化であり、それゆえ各事業部はほとんど独立して運営されていた。

 UTCのシニア・バイス・プレジデントのジョン・キャシディと、企業内研究所のユナイテッド・テクノロジーズ・リサーチ・センター(UTRC)のディレクターであるカール・ネットは、この分権化が気になっていた。彼らは、事業部と事業部の接点には有機的成長(M&Aに頼らない既存事業による成長)の可能性が大きいと踏んでいた。しかしUTCの歴史や企業文化、社内慣行や管理システムを考えると、組織の枠を超えてさまざまな専門知識や技術を融合させるのは、キャシディの言葉を借りれば「自然に湧いてこない」行動だった。

 2人はこのような状況を打破しようと、2002年、各事業部の技術部門からAクラス人材を集めて、2日間のブレーンストーミングを何度か催した。その意図するところは、広範な専門知識と技術を結集して新製品を誕生させ、新規市場に参入することだった。

 冷却、加熱、電力の各技術が重なり合う領域に、どうやら勝算がありそうだった。あるセッションでは、キヤリア、プラット・アンド・ホイットニー、UTRCのエンジニアたちは、冷却と加熱の設備を応用した発電方法という斬新なアイデアを実らせ、革新的な製品が開発できることに気づいた。

 この製品は〈ピュアサイクル〉と名づけられ、特に新しい部品を使うことなく、画期的なバリュー・プロポジション(提供価値)を実現するものだった。これを利用すれば、顧客は電力会社に支払う料金よりも大幅に低いコストで、廃熱を電力に転換できる。これは、タービンとして働くように改造されたコンプレッサーと、商業用大型空調機器に使われている2種類の熱交換器を組み合わせたものだ。電力を使って空気を冷却する代わりに、〈ピュアサイクル〉は廃熱によって発電する。

 この製品はきわめて有望だった。というのも、アメリカ国内の全工場では、50ギガワットの発電所が排出するのとほぼ同じ量の廃熱が発生していたからだった。この規模は、アメリカのほとんどの大都市における消費電力量を賄うに足りる。

 いま振り返ると、〈ピュアサイクル〉の開発に参画したエンジニアたちにすれば、それまでだれもこのアイデアを思いつかなかったことが信じられないだろう。元キヤリアのエンジニアで、UTRCに転籍して〈ピュアサイクル〉の開発を率いたティエリー・ジョマールいわく、「キヤリアの社員たちは、熱交換を使って空気を冷却する方法を考えるように訓練されています。とにかく彼らには、空気を冷やせるかどうかが問題なのです。コンプレッサーは液を循環させるだけのものにすぎません。一方、プラット・アンド・ホイットニーのエンジニアたちは発電が専門です。彼らにすれば、重要なのは電力を生産することであり、タービンはそのための道具と考えていたのです」。したがって、両者が顔を突き合わせるまで、だれもこのイノベーションのチャンスに気づかなかった。

 やはり、人と人のつながりは重要である。もちろん、言わずもがなである。定型化された製造プロセスやサービスの場合はともかく、ほとんどの業務は、標準化されたプロセスや正式な制度的仕組みよりも、非公式なソーシャル・ネットワークを介したコラボレーションに頼っている。