『ウエスト・サイド物語』はなぜ大成功したのか

 流血と人種の対立、不協和音とギャング団のダンス──。1950年代後半にブロードウェイで初演された『ウエスト・サイド物語』は、当時の常識を覆すミュージカルだった。その頃、ミュージカルといえば蜜のように甘ったるいものと相場が決まっていた。したがって『ウエスト・サイド物語』の制作は、一か八かの賭けであり、アメリカの大衆演劇を根本から変えるイノベーションだった。

 その後に映画化され、アカデミー賞の10部門でオスカー像を受賞した。制作者である天才たち、振付師のジェローム・ロビンス、原作者のアーサー・ローレンツ、作曲家のレナード・バーンスタイン、作詞家のスティーブン・ソンドハイムはまさしく大成功を収めた。

 ビジネス、芸術、科学、スポーツ、政治など、いかなる人間の営みにおいて、イノベーションを起こし、素晴らしい成果を上げた人たちがいる。産業界を見てみよう。

 たとえば「ウィズ・キッド(神童)・チーム」だ。これはアメリカ空軍の元将校10人のチームで、46年に業績不振のフォード・モーターにこのチームごと採用され、その後同社の業績をみごと好転させた。シーモア・クレイ率いる「スーパーマン」たちもそうだ。60年代前半、彼らは世界に先駆けて商用スーパー・コンピュータを開発した。その性能は、IBMのプロセッサーを圧倒的に上回っていた。

 また最近の例では、マイクロソフトの〈Xbox〉開発チームがある。彼らは、新型ゲーム機の開発という、意表を突いた使命に取り組み、ソニーの〈プレイステーション2〉の売れ行きに、発売直後の数カ月間、大きな影響を及ぼした。

 彼らは、言わば「名人(ヴィルトーゾ)チーム」(virtuoso team:virtuosoはイタリア語で「名人芸」の意味)であり、単なるワーキング・グループとも、日常的な課題に取り組む平凡なグループとも根本的に異なる。困難を極める課題を実現するために、その道の達人たちを集めたチームである。彼ら彼女らは、目が回るようなスピードで仕事をこなし、目に見えるくらいのエネルギーを放ち、貪欲に目標を追求する。激烈な議論を戦わせ、士気が高く、桁外れの成果を上げる。その意味では、並ぶもののない存在である。

 ところが、多くの企業が彼ら彼女らの高い能力を知りつつも、名人チームの結成には消極的である。「リスクが高すぎる」というのが、その理由である。というのも、これら名人たちは、目標を達成すると、燃え尽き症候群に至ったり、別の新しい課題に心移りしたりと、とたんにてんでバラバラになってしまうからである。

 また、エリート主義でお天気屋、自己中心的ゆえに、あまり一緒に仕事はしたくないという印象がある。このような人たちが集まり、一か八かのプロジェクトに取り組むとなると、とっくみ合いのケンカにもなりかねない。そんなチームをうまく操縦するなど、考えるだけで辛い。そこで、多くの企業は無難な道を選び、協調性の高い人たちを選んで、月並みな成果でよしとする。よくあるパターンだ。

 我々は6年間にわたり、世界的に名の知れた企業20社で調査を実施し、大事なプロジェクトを担うチームをその内側から調べてみた。その結果、野心にあふれ、才能豊かな人たちがチーム・メンバーにいると、組織として機能せず、失敗する場合があることが判明した。実際に失敗を目の当たりにした例もある。