-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
「ピープル・ビジネス」とは何か
今日、事業を成功させるカギを握っているのは資本ではなく、人材である。もはや言うまでもなかろう。たとえば、老舗メーカーの多くが実質上、サービス業に転じている。また、ほとんどの業界で、総人件費が総資本コストをはるかに上回っている。
また、一見した限り、とても労働集約型企業といえないが、実は人材を基盤とする事業が全社の業績を押し上げているという例は少なくない。しかし、そこで用いられている業績評価指標や経営手法の大半が、そのような人材重視型事業の経済的特徴にふさわしいものではない。
このような経済的特性に照らすと、IBMに類似している企業とは、インテルのような隣接分野の企業ではない。むしろ、大手広告代理店のオムニコム・グループや油田サービス・プロバイダーのシュルンベルジェなどだろう。しかし、このような認識をほとんどの経営者がなおざりにしている。
現在のIBMにおいて、その戦略からすれば、インテルとの協力や競合他社といった要因が重要だろうが、その業績を支えている主要因は、むしろ一見毛色が異なる人材重視型企業のそれと同じなのだ。
このように人材が最も重要な経営資源の場合、実のところ、一般的な業績評価指標や経営手法の一部は役に立たない。業績評価指標として広く定着し、業績評価のあり方を一新した、いわゆる「EP」(economic profit:経済的利益)の概念を例に考えてみよう。
EVA(economic value added:経済付加価値)やキャッシュフローに基づくCVA(cash value added:現金付加価値)をはじめ、税引後営業利益から資本コスト分を差し引いた経済価値であるEPは、伝統的な損益計算書では無視されていた負債と株主資本を合わせた資本コストを反映させた業績評価指標である。だがEPも、人件費が比較的高く、同じく資本コストが低い企業に適用するには問題がある。
要するに、これまでどおりの業績評価指標を使っている限り、労働集約的な事業の業績を支えている本当の要因について正しく理解することはかなわないといえる。
どこで、どのように価値が生み出されているのか、逆に浪費されているのかを明らかにするには、EPと同じく厳正で、かつ資本生産性ではなく労働生産性を浮き彫りにする業績評価指標が必要だ。