【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
ロバート A. ラッツ
(Robert A. Lutz)ゼネラルモーターズ 副会長
クレイトン M. クリステンセン(Clayton M. Christensen)ハーバード・ビジネススクール 教授
ジェイソン・ウィッツ(Jason Wittes)リーリンク・スワン エクイティ・シニア・アナリスト
ニック・ギャラカトス(Nick Galakatos)MPMキャピタル ゼネラル・パートナー

[ケース・ライター]
ジョン T. グルビル
(John T. Gourville)ハーバード・ビジネススクール 准教授

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

未完の技術
吸水性インプラント

「ここで重要なのは、ハンマーで叩くたびに大腿骨用のネイル(髄内釘)が骨に食い込んでいく手応えを感じなければならない点です。その手応えが伝わってこない場合は、ただちに作業を中止します。ネイルが皮質に当たっているか、管に対してネイルが大きすぎる可能性があります。そのまま叩き続けると、皮質が破壊されてしまいます」

 10数人の整形外科医たちが解剖用死体の下肢と格闘しているなか、教師然としたトレーナーの落ち着いた声が部屋じゅうに響き渡る。彼がある整形外科医の手際を観察しようと立ち止まった時、ふと目を上げると、CEOのピーター・ウォルシュがドアを少しだけ開けて、邪魔にならないようにするりと部屋に入ってきた。トレーナーは時計をチラリと見て、「では、残りは午後のお楽しみにしましょう」と参加者たちに声をかけた。「10分後にロビーに集合して、昼食に出かけます」

 クレスコーディアは、人工股関節からメスに至るまで、さまざまな医療機器の製造のみならず、骨折治療用固定装置であるスチール製やチタニウム製のプレートやスクリュー(どちらも骨折の内固定材料の一つ)、ネイルなども手がける、数少ない大手医療機器メーカーの一つだ。

 同社は今日のように、エンドユーザーである整形外科医を対象とした講習会を月2回ほど開催している。ウォルシュは参加者との昼食をいつも心がけていた。というのも、自社製品について気に入っている点と不満な点を教えてもらう、またとないチャンスだからだ。それに、医師たちとの交流そのものが楽しいからでもあった。