-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
歴史的な成功を収めているテイラー・スウィフト
テイラー・スウィフトはデビューから20年足らずで音楽業界を制した。これまでに11枚のオリジナルアルバムをリリースし、ミュージックカタログ販売とストリーミング数を合計すると、歴代ベストセラーアーティストのトップ10に入る。マイケル・ジャクソン、エルビス・プレスリー、マドンナ、フランク・シナトラなど大物アーティストの間に割って入っているのだ。
最近終わった「ジ・エラズ・ツアー」(史上最高の興行収入を記録)は、ビートルズと比較されるほどの世界的熱狂を巻き起こした。推定純資産が16億ドルに上るスウィフトは、同世代の中で最も経済的に成功したミュージシャンだ。CDからiTunes、スポティファイへと、音楽業界が技術的にもビジネスモデル的にも重大な転換期を迎える中で、彼女はこれらすべてを成し遂げてきたのである。
歴史上、ミュージシャンが成功し続けるのは難しかった。アルバムを一、二枚出しても、それ以上の人気や関連性を保つところでつまずくことが多い。稀に生き残ったアーティストはたいてい懐メロを歌うようになる。
彼女は35歳だが、スウィフト現象はすでに多世代に及ぶ。2006年に彼女のデビューアルバムを買った10代の少女はいまや、自分の子どもと一緒に彼女のコンサートに足を運んでいるのだ。実際に、これまでのファンに愛されるコアな部分を維持しながら、自己改革して新しいファンを引き込む彼女の能力は、そのユニークな文化的モメンタムのカギとなっている。
筆者は2年以上にわたって、スウィフトのキャリアの全軌跡を探る本を執筆しながら、彼女の意思決定に深く入り込み、どのように、また、どうして彼女が勝ち続けているのか理解しようと努めた。
たしかに、彼女は何よりもまず自身をアーティストとして位置づけており、戦略家としての側面をあえて控えめに語ることもある。「朝起きて『よし、今日は何かしらイノベーションを起こしてやろう』なんて思ったことは一度もありません」と、2023年のアイハートラジオ・ミュージックアワードでイノベーター賞を受賞した時に彼女は語っていた。「私にとって正しい意思決定をしようとしてきただけなのです」と言う。
しかし、自身では認めていないが、彼女は長年にわたって素晴らしいイノベーション力を発揮し、高度な戦略とマーケティング活動を展開してきた。これまでスティーブ・ジョブズ、リチャード・ブランソン、ジェフ・ベゾスらビジネス界のビジョナリーを研究してきたのと同じように、彼女のキャリアから教訓を導き出す価値がある。
それでは、スウィフトの長期的成功の秘訣はどこにあるのだろうか。筆者の見解では4つの行動に起因すると思われる。それは、未開拓市場をターゲットにする、粘着性(スティッキネス)を生み出す機会を見出す、生産性パラノイアであり続ける、プラットフォームの急激な変化に適応する、の4つである。