ビジネス現場の問題解決に理論を活かす

入山:本日はありがとうございます。私は米ピッツバーグ大学で博士号を取りました。博士課程時代からバーニー教授の論文は、それはもうたくさん読んでいますよ。もしかしたらご本人よりも読み込んでいるかもしれません(笑)。

バーニー:それはとても光栄です。これまでキャリアの大半を学術論文の執筆に費やしてきましたが、アイデアをより身近に伝えるために、2024年頃から新しい取り組みを始めました。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)への寄稿もその一環です。

入山:教授の論文「生成AIで持続的な競争優位は築けない[注1]」を読み、とても驚きました。共著者のボストン コンサルティング グループ(BCG)ヘンダーソン研究所チェアマンのマーティン・リーブス氏は教授と対照的に、実践の世界の方です。教授はこれまで学問の世界で、特に経営理論の構築で多くの実績を残されましたが、今後は「理論の実践化」に移行されるのですか。

バーニー:私は企業のコンサルティングにも携わってきました。担当したクライアントの数は50~60社ほど、業種は多岐にわたります。ご存じの通り、私の研究分野は主に理論の構築です。理論家は抽象的な世界にこもりがちですが、私は現実世界と接点を持ちたいと考え、コンサルティングを始めました。企業戦略に関する課題を解決するプロジェクトに毎年2件ほど関わり、自分のアイデアが実践的かどうかを確認できる貴重な機会になっています。

入山:リーブス氏との共著論文では、バーニー教授が企業の競争優位は模倣困難な独自の経営資源に基づくことを主張した「リソース・ベースト・ビュー」(RBV)が見事に応用されています。理論的な研究結果をビジネスに応用する長所はどこにありますか。

バーニー:たとえば、ビジネス現場に大きな影響を与える理論があれば、それは非常に有用といえます。理論が問題解決の手段になるからです。あるクライアント企業から、私の専門ではない垂直統合について相談を受けたことがあります。私はまず垂直統合に関して自分が知る4つの考え方から、どれがその状況に最適かを考え、質問しました。話を進めると、典型的な取引コストの問題だとわかりました。取引コスト理論なら私もよく知っていますから、クライアントを質問攻めにしました。その結果、クライアントは目から鱗が落ちる経験をしたわけです。これは、よく知られた理論を特定の状況に応用した例です。

 コンサルティングといっても、私はマッキンゼー・アンド・カンパニーやBCGとは異なり、若く優秀なコンサルタントを数十人揃えて多くの仕事を請け負うことはできません。その代わりに、自分が精通する8つほどの理論をビジネスに応用するのが私のスタイルなのです。

入山:どの理論が最も驚くべき影響を実務家に与えていますか。