【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
アラン L. ベックマン
(Alan L. Boeckmann)フラワー・コーポレーション 会長兼CEO
ラファエル・ディ・テラ(Rafael Di Tella)ハーバード・ビジネススクール 教授
トーマス W. ダンフィ(Thomas W. Dunfee)ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール 教授
ボジダー・ジェリック(Bozidar Djelic)元セルビア・モンテネグロ 財政経済大臣

[ケース・ライター]
フィル・ボドロック
(Phil Bodrock)ノースイースタン大学 助教授

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

ウクライナ国税局からのいわれなき追徴課税

「相手は何人だった。武装していたのか。書類やデジタル・データを没収されなかったか」

 ウクライナのキエフへの電話回線はたいてい雑音混じりだが、今回ばかりは見事にクリアだ。にもかかわらず、パブロ・ジュックは大声を張り上げている自分に、はっとした。その時、彼はカリフォルニア州レッドウッズにある大農場にいた。

 ジュックは、ソフトウエア会社を興した若き起業家である。大きな箱時計が朝6時を告げ、彼が台所に降りてくるなり、電話が鳴り、彼をドキリとさせた。電話の主はコースチャ・フナチュクだ。ジュックの友人であり、ウクライナの首都、キエフにある彼のソフトウエア開発センターの運営を預かっている。彼によると、いま同センターに人が訪ねてきたという。それもあまり歓迎されない相手が──。

 フナチュクは、いましがた伝えた内容を辛抱強く繰り返した。「パブロ、いまオフィスに向かっている途中だから、詳しいことはわからない。僕が飛行機から降りようとしていた15分前、タラス・ボロベッツから電話があって、今日の午後、UTA(ウクライナ国税局)の職員が3、4人やってきたそうなんだ。オフィスに入ってきたのはそのうちの一人だけで、女性だったらしい。男たちは武装していたかもしれないが、タラスはそうは言ってなかった」

「いったい、その女性は何と言ったんだい」。ジュックが遮るように尋ねた。