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米国トランプ政権の関税政策に端を発する対立や混乱で世界の分断化に拍車がかかる中、PwCコンサルティングのシンクタンク部門であるPwC Intelligenceは『世界の「分断」から考える 日本企業 変貌するアジアでの役割と挑戦』(ダイヤモンド社)を上梓した。PwC Intelligenceを統括し、著者の一人でもある片岡剛士上席執行役員チーフエコノミストと、先端技術が専門の三治信一朗執行役員パートナー、企業のグローバルビジネス拡大支援を担う村田俊博執行役員パートナーを迎え、分断化が進む世界経済の行方と日本企業の経営課題について聞いた。
分断化阻止に求められる、課題先進国・日本の役割
――世界が分断化しつつある現状をどう見ていますか。
片岡 世界が統合化から分断化に転換し始めたのは、米中貿易対立が顕在化した2017年頃からです。ロシア・ウクライナ紛争の長期化も、第2次トランプ政権による相互関税も、分断化という大きなトレンドの一環として見る必要があります。またインドやアジア諸国、アフリカ諸国といったグローバルサウスは、経済成長や人口増を背景に国際社会での発言力を高めているだけでなく、米中貿易対立の迂回地域としても存在感を増しています。
こうした分断化を前に、政治・経済・社会におけるこれまでの「常識」がどう変わっていくのか、私たちは冷静に考える必要があります。特に米国の自国第一主義は「トランプ政権後」も不変と見るのが妥当であり、対応を慎重に検討すべきでしょう。

上席執行役員 チーフエコノミスト
片岡剛士氏
――今後どのような変化が起こりうるのか、想定されるシナリオについてお聞かせください。
片岡 二つのシナリオが考えられます。一つは「完全な分断化」です。20世紀前半の大恐慌時よりも強固なブロック経済圏が形成され、世界経済の生産力が低下していく。もう一つは「分断化に歯止めがかかる」というシナリオです。
分断化を食い止めるうえで、日本は極めて重要なポジションにあると思います。アジアの伝統的な価値観を有している一方、西欧の価値観を体現し、世界でも有数の経済大国にも位置づけているからです。たとえば「課題先進国」としてアジアの社会課題解決に貢献し、地域全体の連帯を強めていくことは、融和に向けて日本が取りうる有力なアプローチだと思います。
――世界経済が統合化に向かう中では、テクノロジーがグローバルサプライチェーンの基盤として重要な役割を果たしてきました。今後、テクノロジーはどう進化し、ビジネスにどう影響していくのでしょうか。
三治 生成AIの進化により、究極的には、現在のホワイトカラーが担う業務がほとんどなくなる可能性があります。そうなった時に、ホワイトカラーをどう配置転換するのか。大企業という形態のまま雇用を維持するのか、それとも機動的な小チームになるのか。組織のあり方そのものが変わっていくと思います。
片岡 雇用において、実はテクノロジーが分断化を加速させてしまう側面があります。実際、米国では製造業がサービス化していく中、高度なデジタルスキルを要する知的なサービス業に就く人と、対人接触型のサービス業に就く人の二極化が進んでいます。テクノロジーの恩恵をどのように等しく行き渡らせ、経済成長や社会の安定に結びつけていくのか。今後はそういう視点が求められていくのではないでしょうか。