アジア市場は「色味を加えて」把握すべき
――伺ったような変化が起こりうる中、ビジネスではどのような課題が生じるのでしょうか。
村田 統合された世界では効率性がすべてであり、効率性の下に組織も人も最適化されていました。製造業であれば「安いところでつくって高いところで売る」ことが原則だったわけです。ところが分断化が進展すれば、これまでのやり方が通用しなくなります。今回の相互関税にしても、米国へ輸出する最終製品だけでなく、原材料・部品すべての関税が変わる可能性があるため、原価計算やプライシングを一からやり直す必要があります。しかも今後、こうした大きな変化が数年単位で起きる可能性が高い。現状の組織構造や考え方のままでは、対応していくのが非常に難しいと思います。
三治 グローバルビジネスに精通している村田さんの肌感覚として、これからアジアと向き合っていくうえでの課題は何だと思いますか。
村田 これまで多くの日本企業は、「日本」と「それ以外」という認識で、アジア全体を同じイメージで見ていたように思います。しかし今後、分断化によって地産地消型のビジネスが広まっていくと、「A国とB国では売れる洗剤が少し異なる」といったような消費財系の目線でアジアのマーケットを深く知る必要性が出てきます。
片岡 「日本」と「その他」の2トーンではなく、国ごとに「色味を加える」ということですね。
村田 そうです。その際に悩ましいのは、人よりもAIのほうがマーケットを正確に理解できる可能性が高いことです。その場合、現地を熟知した優秀な人材をヘッドハントする必要がなくなり、後発参入する企業の戦い方が変わってきます。
三治 一方で、AIによるマーケットの掌握だけでビジネスがうまくいくとは思えません。つまり、リスクテイクやトライアル・アンド・エラーの仕組みを変えていく必要がありますし、評価の仕方も変えていく必要があるのではないでしょうか。

執行役員 パートナー
三治信一朗氏
片岡 もっと言えば、どの企業もAIを活用できるわけですから、パーパスのような根本から考えることが、より重要性を増していくと思います。それをしない企業は立ち行かなくなり、力のある企業に次々に統合されていく。米国ですでに起きている「一人勝ち」です。それに抗うには、経営者が自分なりの目線で多様な情報を集め、自分の会社が何によって世界に貢献するのかを見定めること以外にないと思います。
三治 「一人勝ち」を是とする収奪的な価値観だけでは、人間の能力を組み合わせて付加価値を上げていくことができません。それとは別の価値観を掲げ、手を握り合える相手と共有化していくことが、日本企業に求められているように思います。
片岡 企業だけでなく、日本が自律的にリーダーシップを発揮し、自由貿易や国際協調といった「大義」を掲げ、他国との連帯を図っていくことも重要でしょう。
村田 そうした国家間の動きに、企業としてどう関わっていくのか。あるいは、それを所与の条件として、ビジネスをどう変えていくのか。企業は難しい判断を迫られることになりますが、「ピンチはチャンス」ということは強調しておきたいですね。