再生IBMの新しい価値観をつくる

 2003年7月、IBMは72時間に及ぶ実験を敢行した。その結果の行方は、同社の研究室で行われているあらゆる実験と同じく、まったく予断を許さなかった。

 組織の頂点から底辺に至るまで、全社的な見直しに着手してから半年を経た後、IBMの価値観について3日間に及ぶディスカッションがイントラネット上で実施された。「バリューズジャム」と名づけられたこのネット・フォーラムには、数千人の社員が参加し、コンピュータの巨人IBMならではの特徴、また存在意義について侃々諤々の議論が繰り広げられた。

 3日間で、CEOのサミュエル・パルミサーノを含め、IBM社員の5万人がこのディスカッションを閲覧したと推定される。しかも、そこに投稿された価値観に関する意見はおよそ1万件に上った。とにかく、バリューズジャムが参加者の心に何かを訴えたことは間違いなかった。

 もっとも、そこから聞こえてきたのは耳に障るような不協和音ばかりだった。なかには、明らかに皮肉でしかない意見もあった。たとえば、こんなタイトルがつけられていた。「いまのIBMで唯一価値があるのはその株価だ」。ほかには「会社は社員の価値を評価する(そりゃそうさ)」と題した投稿もあった。

 その一方、マネジメントに関する根本的な問題点を指摘するものが多かった。「信頼とか、リスク・テイキングとか、IBMではそのようなことがよく口にされます。ですが、その一方で、次から次へと監査が実施され、ミスを犯せばペナルティが科せられ、失敗は学習の一部であると肯定的に評価されることなどありません。管理職、そしてそれ以外の人たちも、常に監視の目にさらされています」と、ある社員は投稿している。

「当社の若いエグゼクティブの間には、シニアなエグゼクティブに異を唱えることをはばかる雰囲気が漂っています。『サム(CEO)にその戦略は間違っていると伝えてくれませんか』といった言葉を何度聞いたことでしょう」とこぼす社員もいた。

 議論が始まって24時間が経過した時点で、少なくとも一人のシニア・エグゼクティブはバリューズジャムを中止したいと考えた。しかし、パルミサーノは首を縦に振らなかった。