市場の多様性に
社員の多様性で応える

 ルイス・ガースナーとIBMの復活と聞けば、素晴らしい企業再生の物語であろうと、まずだれもがそう思う。

 実はあまり知られていないが、一連のIBMの再生にはもう一つ重要な要因が存在する。それは人間にまつわる物語といえよう。すなわち、人材の多様性をこれまで以上に劇的に向上させ、新規事業で莫大な利益を生み出したのである。

 ガースナーがトップに就任した1993年の時点でも、IBMには人権や雇用機会均等の面で進歩的な経営の伝統が受け継がれていた。とはいえ、人材の多様性そのものをあえて戦略目標に掲げた経営陣はいなかった。

 しかし、ガースナーがマネジメント・チームの顔ぶれを眺めてみると、労働市場全体の構成と比較しても、またIBMの顧客や社員の構成に照らしても、明らかに多様性に乏しかった。

 ガースナーはこの不均衡を正すために、人材の多様性を専門に担当するタスクフォースをいくつも発足させて、人事戦略の要に据えた。この活動はガースナーの在任期間中のみならず、サミュエル・パルミサーノにCEOのバトンが託された現在も続いている。

 IBMは、あえて社員の多様性に触れないことで差別をなくそうとはしなかった。8つのタスクフォースを始動させ、それぞれがアジア系、同性愛者、女性などのグループを担当させた。

 これらタスクフォースの目的は、各グループの違いを十分理解し、これまで以上に広範の社員や顧客の支持を得る方策を探ることである。