【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
ウィリアム A. ザールマン
(William A. Sahlman)ハーバード・ビジネススクール 教授
ジョージ G. ブレンカート(George G. Brenkert)ジョージタウン大学 マクドナー・スクール・オブ・ビジネス 教授
ソニア・ロー(Sonia Lo)チャルシス・パートナーズ 共同創業者兼マネージング・パートナー
チャラランボス・ブラチャウツィコス(Charalambos Vlachoutsicos)7Lキャピタル・パートナーズ・エマージング・ヨーロッパ アドバイザー

[ケース・ライター]
ジョン W. マリンズ
(John W. Mullins)ロンドン・ビジネススクール 准教授

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

一瞬のすきに書き換えられた契約書

 もう午後9時近い──。ペトロリンク・トランスポート・テクノロジーズのロバート・ジェームソンとカール・フェンスターマン、そしてナイジェル・リットソンの3人は、BRXキャピタルのレヒ・ワトリックとワルター・クロンバック、そして同社の弁護士2人と、早朝からずっと話し合い続けている。

 彼らは、バルト海での天然ガス・パイプラインの建設費400億ユーロの投資をめぐって、交渉に次ぐ交渉に身を粉にしていたが、ようやく最後の詰めの段階に入っていた。机の上には小切手が置かれている。

 話し合いは朝からずっと続いていたにもかかわらず、夜になっても終わらず、簡単な夕食を済ませた後、また再開された。契約上決めなければならない条項はあと6つだけだった。これら以外はすべて合意に至っている。

 すでにロバートとカールは、必要とあればこれらの点で譲歩するのもやむをえないと考えていたが、それでも最善の契約を引き出そうと、最後まで粘り強く交渉を重ねた。