時間の浪費癖は心理的葛藤から生じる
マネジャーはさまざまに部下を分類するものだ。外向的性格か内向的性格かといった分け方もあれば、リスクの許容度を見る場合もある。その一方で、あまり活用されていないのが時間の使い方であり、無駄を基準とする分類法だ。その巧拙が組織の生産性や収益性に与える影響度を考えれば、なるほどである。
時間を浪費する部下を抱えたことのあるマネジャーならば、何事も先送りにする者、期限前に仕事を終えようとしゃかりきになるが仕上がりの悪い者など、時間を有効活用できない人々がモラールや仕事に、いかに壊滅的な影響を及ぼすかは先刻承知のことだろう。
時間の浪費という問題は、いわゆるタイム・マネジメントとはまったく無関係である。人生に規律を持たせるための実践的な知恵は多くの人に役立つものだが、タイム・マネジメントの教訓は時間浪費社員に何ら役立たない。
時間の浪費は往々にして心理的葛藤が原因であり、ワークショップやマネジャーの叱責などで簡単に直せるものではない。
実際、彼ら彼女らが抱えている問題は、時間そのものが原因ではなく、傷つきやすい自尊心であったり、欠点を指摘される、あるいは査定されることへの無意識の恐怖だったりする。それゆえマネジャーは、タイム・マネジメントの方法を教えるのではなく、不安要素に着目して対処すべきである。
スコット・ガートナーという、大手アパレル・メーカーに勤務する、クリオ賞を受賞したクリエイティブ・ディレクターを例に考えてみよう(この論考に登場する人物の名前はすべて仮名である)。
スコットがその仕事を始めた頃、彼の完璧主義はチーム・メンバーにとって許容範囲内にあった。彼のこだわりから仕事が遅れることもしばしばだったが、いつも素晴らしい作品を仕上げていた。
しかし残念ながら、キャリアを重ねるにつれて、彼の完璧主義は自虐的なものへと発展していった。ほとんどの仕事がままならなくなり、特にクリオ賞を受賞した後には、仕事の遅れは度を越えていった。
スコットの言い訳はいつも同じだった。「締め切りが近づいても満足できる結果を出せないようなメンバーは解雇せざるをえなかったのです」
彼は作品を仕上げるために、毎晩のように徹夜を余儀なくされた。やがて過労が重なり、彼が不在では何も進まないマーケティング会議をしばしば欠席するようになった。ある年などは、彼の完璧主義のおかげで、広告宣伝費がおよそ15%増加し、また2人のメンバーを失うことになった。
スコットの上司に依頼を受け、私は彼を診察することになった。そしてスケジュールを守れないのは、彼の生い立ちと深く関係していることが明らかになった。
スコットの父親は軍曹だった。父親はスコットが何かしようとすると、いつもオーバーに熱弁を振るったという。問題は、スコットがやったことで、父親を満足させられるものが何一つなかったことにある。
たとえば、試験で好得点を取っても、父親は「1番の奴は何点なんだ」と噛みついた。長年にわたってそのようなプレッシャーにさらされてきたことで、彼は無意識のうちにフィードバックを恐れるようになったのである。
このようなジレンマに対処するために、スコットは仕事のスケジュールを巧みに利用する習慣を身につけていた。高い評価を得る可能性を高め、少なくとも悪い評価とならないように善処したのである。
スコットにすれば、父親の期待に応えられないくらいならば、たとえ時間に間に合わなくとも最善を尽くすほうが賢明だった。実際、時間がかかっても期待どおりの成果を上げられれば、その途中で起こる混乱はたいてい許されることを知っていたからである。
時間浪費社員の「4P」
時間を浪費しているのはスコット・ガートナーだけではない。臨床心理士として、またエグゼクティブ・コーチとして、私は彼のような時間を浪費する人々を何百人と見てきた。そのうちの10数人とは、一対一で時間の戦場で共に闘った。
そして当然のことながら、スコットのような「(1)完璧主義者」(perfectionist)だけが時間を浪費しているのではないことに気づいた。
実際、これまでの長い年月の間に、以下の3タイプの人々とも出会っていたのである。
(2)先行タイプ(preemptive)
自分の仕事のペースを崩すまいと、期限のはるか前に仕事を終える。しかし往々にして、不評を買ったり、役立たずと見なされたりする。
(3)お人好し(people pleaser)
「ノー」と言えないために、過剰に仕事を抱え込む。
(4)先送り(procrastinator)
その仕事に不向きなことが発覚する恐怖を覆い隠すため、常にもっともらしく聞こえる言い訳をする。
これら4タイプの人々をマネジメントすることは、彼ら彼女らが批判や承認に対して普通とは違う反応を示すこともあり、容易ではない。たとえば、先送りタイプが期限を守った時にほめれば、マネジャーであるあなたの期待が以前よりも高くなったことへの恐怖が強まり、問題を悪化させる。
本稿では、職場にいる典型的な時間浪費社員について論じる。私が「4P」と命名した分類は、彼ら彼女らがみずから問題に向き合うことをサポートするうえで、どのような介入が適切かを判断する材料となる(表「時間浪費社員のマネジメント」を参照)。
表 時間浪費社員のマネジメント
時間浪費社員のマネジメントとは、彼ら彼女らの時間を管理することではなく、「内なる悪魔」との対決を支援することである。実際、医師の治療を必要とする人もいるため、マネジャーにできることには限りがあるが、次の点に留意すべきだろう。
[昇進させる ─Promote─]
先行タイプの場合、自分の仕事のペースを保てるように部下をつける。部下たちとの交流を促すことで、さまざまな不確定要素に慣れさせる。
[失敗の恐怖と向き合わせる ─Attack the Fear of Failure─]
先送りタイプの場合、自分が抱えている恐怖心に直面させ、特定の成果を全体の業績評価から分離させる。それによって、自分を欺く可能性が低くなる。
[フラッディングを実施する ─Flood─]
完璧主義者の場合、進捗状況や現状の報告といった逐次の活動を評価に関連させる。それによって、最終評価への恐怖心を和らげる。ただし多くの場合、この症状からの回復はしかるべき治療を施さない限り難しい。
[ほめて、かつ守る ─Praise and Protect─]
お人好しタイプの場合、その業務量に配慮しながら、他部門や他のメンバーからの依頼で彼ら彼女らの時間が奪われていないかに注意する。また、通常の業務のなかでほめる。称賛を与えることで、他の仕事を引き受けさせないようにするためだ。
【P1】先行タイプ
時間を浪費する人が、同僚をいらだたせる理由はさまざまだが、「自分のできる範囲内で最善の仕事をしている」と信じ切っている頑固者という点では一様である。このことは、先行タイプの比較的少数派に最も当てはまる。
先行タイプは決まって期限前に仕事を終える。期限の何週間も前に仕事を片づけ、いつもマイペースを維持しているかに見える。では、何が問題なのか。大方において問題はない。実際、先行タイプは、組織のなかで長きにわたってマイナス評価を受けることなく成功を収める。手のかからない部下に、マネジャーも満足するからだ。
しかし時が経つにつれて、自分の行動がいかに他人に影響を及ぼしているかに頓着しない先行タイプは、モラール上の問題を引き起こす。彼ら彼女らがチーム・プレーヤーとして振る舞うことはほとんどない。仕事は一人前かもしれないが、正面切って敵対しないまでもチームの期待を斟酌しないという点で、自己中心的人間といえる。
たとえば、期限前に仕上げようと取りつかれたように働き、まだ仕事が終わっていない同僚に手を貸すべき時に、次の仕事に取りかかったりする。また、自分のペースを乱されまいとする態度が、周囲の歓心を得ようとする、あるいは他人の努力に水を差す策略のように見られたりすると、重大な軋轢が生じる。
このような強迫観念になぜ取りつかれているのだろうか。重い病気や突然の失職といった成人してから体験したトラウマから、先行タイプになる人もわずかだが存在する。しかしほとんどの場合、混乱した環境のなかで育ったことが大きく影響している。
先行タイプにおける、先行きを読み取るセンスや秩序の元となっている几帳面さ──これゆえに、怒りの感情を抱くことはあっても、恐れを感じることはない──が問題なのではない。
その両親がたえずルールを変えていたことが問題であり、これが先行タイプの予備軍をつくる。親に言われて部屋を掃除していたら、突然「宿題をやっていない」と叱られたといった経験はその一例である。
こうした親の気まぐれのせいで、すぐに命令に応じなければ、ただちにその命令は変更され、叱責されるかもしれない。先行タイプはそう考えてしまう。自分以外の何者かが自分の運命を左右する可能性を極力減らそうと、「早起きは三文の得」といわんばかりに、先に先にと行動する。
[ケース(1)]
ソフトウエア・エンジニアのジェニファーは同僚から疎まれていた
ここで、ジェニファー・ゴダードの例を考えてみよう。スタンフォード大学でコンピュータ・サイエンスを学び、学士号を取得した彼女は、シリコンバレーの先進的なソフトウエア会社に就職した。そして6年という短期間で、品質管理エンジニアに昇進した。
どんな難解なコードの分析を依頼されても、スケジュールに余裕を持って信頼性の高い仕事を完璧にこなした。常日頃から次の仕事の段取りを念頭に置いているため、一仕事を終えると、すぐ新しい仕事に取りかかることができた。
ジェニファーが仕事を始めた当初、矢継ぎ早に次のプロジェクトに着手する彼女のやり方に、他のエンジニアたちはあまり愉快ではなかったが、まだ許せた。しかし、大規模なソフトウエア・プログラムの最終開発段階であるベータ版を開発する時、メンバーの忍耐も限界に達した。
メンバーはコードの修正や書き直しのために、ジェニファーが徹夜作業に参加することを期待した。にもかかわらず彼女は、自分の仕事が終わるとさっさと帰宅してしまい、メンバーを狼狽させた。彼女は自宅からログオンしてきたが、メンバーの怒りは収まらなかった。
自分の役割を終え、次の仕事に移ろうとした時、ジェニファーに怒りのeメールが届いた。それ以降、彼女は地獄を見ることになる。とうとう数人のメンバーが、彼女の辞職を要求したのだ。上司は彼女の仕事の質の高さを理由に擁護したが、だれも耳を貸さなかった。メンバーの一人は「彼女はチームの一員として不適格であり、辞めてもらいたい」と訴えた。
ジェニファーは解雇されるには至らなかったが、精神的ダメージを被るようなことが次々と起こった。彼女が分析の仕事を締め切りの前に終えると、「ボランティアとして仕事を手伝ってほしい」と頻繁に頼まれるようになった。こうしたいじめによって、彼女は次の仕事に取りかかることができなくなった。自分のペースを維持したい彼女の気持ちはかき乱され、不安と憂鬱が募っていった。
上司は品質管理チームの問題を話し合いで解決しようと何度か試みたが、その努力は焼け石に水だった。しかも、後手に回ってしまった。ベータ版の一件から1年も経たないうちに、ジェニファーは転職した。
さて、あなたがジェニファーの上司ならば、彼女の問題にどのように対処するだろうか。私の経験から申し上げれば、無秩序に対する恐怖心と対決させる唯一の方法は、特にメンバーと協働せざるをえない場面では、先行タイプをみずからコントロールしていると感じられるポジションに就けることである。
その一つの方法は、先行タイプを部門長やチーム・リーダーといったポジションに昇進させることが考えられる。部下とのやり取りや他者への責任を全うするという経験を通じて、先行タイプは次第に柔軟性を身につけ、予想外の要求にも対応できる術を徐々に学んでいく。
もう一つの方法として、メンターの役割を担わせることも考えられる。先行タイプは上司からの称賛を必要としており、メンターとなることは、彼ら彼女らが求めてやまない栄誉を手にする方法となろう。メンタリングする相手からも、また上司からも感謝されることで、何らかの保証が実質的に確保できるからだ。
最終的に、このような役割を当人のスキルとして体得できれば、彼ら彼女らの目は社会に向けて開かれ、対人関係スキルも養われよう。
【P2】お人好し
一見すると絵に描いたような理想の社員であるにもかかわらず、時間の使い方で問題があるのが、お人好しタイプである。
人はみな、だれかの役に立ちたいと考えている。実際、いつでも「ノー」ばかり言い続けていれば、やがては追い出されるだけだろう。だからといって、いつも「イエス」と言う人にも問題がないわけではない。
権力と対峙することへの恐怖から、より多くの責任を負おうとする人は、多くの時間を非生産的な活動に注ぎ込まざるをえなくなる。たとえば、早い段階でだれかに手渡すべきプロジェクトに、いつまでも関わっていたりする。先行タイプ同様、お人好しタイプは、上司との関係がこじれた時、時間の面でトラブルを引き起こす。
お人好しタイプの生い立ちに共通して見られる特徴は、子どもの頃に自分の気持ちが十分に尊重されなかったことだろう。
彼ら彼女らは、まるでシンデレラのように、ほかの人、多くの場合、その両親の幸せのために自分の望みを犠牲にすることを学ぶ。みずからのニーズを二の次にしなければならない状況によって、管理されることへの恨みと強い怒りの感情が芽生える。
職場におけるお人好しタイプは、怒りのはけ口として時間を無駄にする。たとえば、気の乗らない仕事を引き受け、つまらない細部に異常なこだわりを見せたりする。このような過剰な献身が認められる場合もあるが、気をつけないと、お人好しタイプが喜ばせたいと思っている、当の権力者との対立に発展しかねない。
[ケース(2)]
人事マネジャーのブルックは「搾取された」と退社した
ブルック・ミラーという、急成長しているソフトウエア会社の人事マネジャーのケースを考えてみよう。
ブルックには文才があったため、CEOはしばしば、スピーチの原稿や報告書を書いてくれるよう、彼女に依頼した。通常の人事関連の仕事に上乗せされた仕事だったが、彼女はいつも楽しそうに引き受けていた。
とはいえ、ほとんどの場合、期限にぎりぎり間に合うといった状態が続き、しかもだんだん遅れ気味になっていった。ブルックが準備に手間取ったおかげで、彼女の上司は3回も、出張中のCEOへ報告書を送るために〈フェデックス〉を手配しなければならなかった。
CEOが彼女に、IT関連の大きな展示会で披露する基調講演の原稿を依頼した時、最悪の事態が起こった。いつものようにブルックは、スピーチ原稿を書く準備に没頭しすぎて、3週間という期限を忘れてしまった。
CEOが「スピーチ原稿の草案を確認したい」とブルックに詰め寄った時のことだ。彼女はCEOに背を向けたまま無造作に机を片づけ、そそくさとオフィスを後にして、そのまま戻ってこなかった。そして展示会終了後、CEOは彼女の辞表を目にすることとなる。そこには、搾取されたことへの批判が書き連ねてあった。
ブルックの上司は、彼女を退職に追い込むはるか以前に、問題の兆候を察知すべきだった。過剰な負担がある場合、人は別途報酬を求めたり、承認を乞うたりするものである。ブルックはそのいずれも要求しなかったが、仕事の遅れは目に余るものがあった。
お人好しタイプは自分を卑下しやすく、でしゃばらない。さりとて、実のところ、ほかの人と同じくらい、そしておそらくだれよりも称賛を必要としている。それがかなわないとなれば、よけいに問題がこじれるばかりか、彼ら彼女らを管理しようと見える権力者を打倒せんと行動することさえある。
この事例が示すように、お人好しタイプの多くは、心の奥深くに怒りを抱え込んでいる。
もしあなたがお人好しタイプを直属の部下に抱えることになった場合、断行訓練[注1]を受けさせるとよい。お人好しタイプは怒りの限界をどこに置くのかを学ぶ必要があり、最終的にはみずからの怒りに対処する方法を知らなければならない。
仕事の遅れをどのように管理するか、この場合、さらに複雑である。あなたが送らなければならない明確なメッセージは、「私からの直接の指示がなければ、仕事をしてはならない」である。
さらに、だれのために何をすべきかを、お人好しタイプにわからせるために、定期的にミーティングを開くことも一考だろう。
お人好しタイプは、職務範囲を超えた仕事を日常的に引き受けている。お人好しタイプのだれかが他部門のために資料を準備していることを知ったら、仕事の一部を穏便に他の人に割り振ることだ。
また、「あなたが必要なのだ」という単純なメッセージを送ることもカギとなる。お人好しタイプには「感謝されている」とたえず思わせることが大切だからである。お人好しタイプがいつも余計に仕事を抱え込もうとする本当の理由はそこにある。この現実的な方法を用いて業務量について話し合うことで、マネジャーはお人好しタイプが締め切りを守ることをサポートできるようになる。
最後に、マネジャーはお人好しタイプと頻繁に評価ミーティングを持つべきである。それは、業績を評価するためではなく、お人好しタイプが「感謝されている」と思えるか否かをあなたが確認するためである。お人好しタイプが余分な仕事に関わりがちなのは、自分の仕事をするよりも、ほかの人の仕事をしたほうが認められることが多いからだ。
お人好しタイプが称賛ほしさに勇み足を踏まないようにするには、他部門のために活躍するよりも、チームにとって大切な存在であることを知らしめることである。
【P3】完璧主義者
完璧主義者もお人好しタイプのように、だれかをいつまでも人質に囲うような時間の乱用者である。ただし完璧主義者は、怒りというよりも苦しみからそのような行動に出る。必要以上に時間をかけて、かなり非現実的な自分自身の理想を達成しようとする。最終的に、非の打ちどころのない完璧さでもって仕事をやり遂げてしまう。
完璧主義者にすれば、仕事の評価基準は出来がよいか悪いかしかなく、中間はありえない。そのような高い理想を達成するために、完璧主義者は心理的に「邪魔をしないでください」というサインを出す。
しかし、このような感情的な孤立感ゆえに、傲慢で尊大な印象をしばしば周囲に与える。本当かどうかは別にして、完璧主義者は、みずからの仕事の質を完全にコントロールしなければ気がすまないのだ。
精神医学を多少なりとも知っている人は、完璧主義者が「強迫神経症[注2]」を患っていると考えがちである。そう考えるのも無理からぬ理由がある。完璧主義者も強迫神経症患者も、たえず何か心配事を抱えており、あきれるほど几帳面で、人や場所や物事を支配することに余念がない。
強迫神経症患者の場合、不安を和らげるために、儀式やルールに過度にこだわるのが特徴である。一方、完璧主義者は、仕事のルールなど気にしない。最高のものを目指すために、あらゆるルールを無視する。完全無欠なものを仕上げようとする完璧主義者の意気込みから付加価値が生じるとしても、人はその価値をほとんど理解できず、ただ失望するだけである。
何が完璧主義者をそうさせるのか。いまのところ、決め手となるような心理学的理論は存在しない。しかし自己イメージが形成される子どもの頃に、達成の難しい基準を満たせずに恥をかかされると、大人になるにつれて極度の屈辱感が形成されやすいことはわかっている。
私が知るマネジャーの一人は、父親が彼にピアノを習わせる時に使った手段に、完璧主義の原因があることを突きとめた。毎週金曜日になるとピアノの前に座らされ、間違いなく弾けるようになるまで練習させられたという。こうした子どもへの厳しい要求は、深いトラウマとなりうる。
高名な精神分析学者のエリック・エリクソン[注3]は、「自分自身を自立した人間であると思えるか、あるいは自分自身への信頼を失い始めるかの重要な分岐点は幼少期にある」と指摘している。この時期に子どもが自信を持てるよう両親が手を貸さないと、いつも劣等感に苛まれることとなり、完璧を目指すという過度の帳尻合わせをするようになる。
完璧主義者は自分の仕事への羞恥心が強く、最善と思えないものは人に見せない。ほんのささいな仕事でも、全力投球しなければ落ち着かない。
完璧主義の原因に関わるもう一つの理論は、自尊心の発達に関連したものである。
精神分析の基本理論の一つに、子どもがその存在価値を健全に認められるようになるうえで、両親が子どもに敬意と共感の念を持って接する必要性を説いたものがある。さもなければ子どもは自己愛[注4]に傷つき、誇大妄想や権利意識を通して逃避に走るようになる。
この視点に立てば、完璧主義は「自己愛性人格障害」の避けがたい副産物と見なすことができる。完璧主義者は、批判を避けるためにできる限りのことを実行し、己の弱点を克服しようとする。「私の仕事が文句のつけようのないものであれば、だれも私の欠点を指摘できない」という理屈だ。
[ケース(3)]
購買担当者のメル・デイビスは上司の配慮や称賛も無視する
症状の原因が何であれ、完璧主義者は、同僚や上司に間違いなくストレスを与える。全国的なレストラン・チェーンのCEO、アレックス・ホイットマンの例を見てみよう。彼は、メル・デイビスという義理の兄弟を購買担当責任者として雇った。しかし、当のメルが完璧主義者であることが後に判明した。
サプライヤーとの契約更新を控え、コストを削減するうえで、既存業者を新規業者に切り替えるべきかどうかを検討してほしいと、アレックスはメルに依頼した。メルは、食品医薬品局の調査にあるような詳細な報告書を準備した。アレックスが抗議すると、メルは「何事も見過ごすわけにはいかない。見落としは高くつく」と答えた。
アレックスは、妻の兄弟を解雇することで家庭内にいざこざを起こしたくなかった。そこで、メルの仕事を他の人に割り振り始めた。しかしこれは、さらなる完璧な仕事をする動機をメルに与えただけだった。
ある時、アレックスはメルに、レストラン用の新しいオーブンの相見積もりを依頼した。メルは10件余りの見積もりを確保した。同時に、天然ガス用オーブンに使える新しい換気扇システムも入札した。さらに建築防災部門に連絡し、基準に適合した設備とするために、必要なことを調査した。
アレックスの友人の建築家が拡張計画を祝福する電話をかけてきたことで、アレックスはメルと激しく言い争うこととなった。メルは侮蔑の目でアレックスを見てこう言った。「私はそんな中途半端な仕事はしない」
先行タイプやお人好しタイプと違って、完璧主義者は組織で受け入れられ、成功するには大きな成果を出さなければならないと思い込んでいる。不幸なことに、この完璧主義が非妥協的にしているのだ。矛盾しているのは、人に受け入れられようとする態度が、まさにその意図を妨げていることだ。
完璧主義者をマネジメントするのは不可能に近い。上司のほめ言葉を期待し、聞く耳を持つ先行タイプやお人好しタイプと違って、完璧主義者は子どもの頃に得られなかった承認を求める。幼少時代が不可能な要求に満ちていたことからトラウマを負っていると考えられ、専門医のサポートなくして真の回復は難しい。
とはいえ私の経験から、完璧主義者に適用できるかもしれない手段が一つだけある。行動療法で言う「フラッディング」である。フラッディングとは、公衆電話の使用といった日常的な行為が元で伝染病に感染すると病的に恐れる細菌恐怖症の患者によく使われる手法である。
この恐怖症は、汚染の可能性のあるもの、たとえば握手をした後、手を洗うことなくサンドイッチを食べても、生きていくうえで支障がないことを学ぶことで癒される。このフラッディングを応用し、完璧と思えるものを上司に提出する前に、できるだけ多くの同僚から完璧主義者の仕事への評価を集めることをお勧めする。
この作戦の利点は2つある。1つ目は、完璧主義者が最も恐れる批判に少しずつさらさせることで、評価への不安に備えさせること。もう一つは、完璧主義者のペルソナを、頑固な孤立者から貢献するチーム・メンバーへと変容させられることだ。
【P4】先送り
先送りタイプは時間を浪費する人々のなかでも、言わば巨匠である。たとえば、小学生の時に「イヌに宿題を食べられてしまった」と言い訳をするような手合いだ。
時間浪費社員のなかでも、先送りタイプが最も多い。土壇場になってパニックになり、他人を巻き込み、昼夜ぶっ通しで仕事を続けて、何とか期限に間に合わせようとする。上司に「あの仕事はどうなった」と尋ねられると、「疫病神を追い払ったら、すぐにもお見せします」と真面目に答える。ところが問題は、そうならないことだ。
先送りタイプは完璧主義者に似て、度を過ぎて仕事が遅い。ただし完璧主義者は、唯一納得できるAプラス評価を達成しようと努力するが、先送りタイプはAプラスなど絶対に無理であると決め込んで、いかなる仕事にも手がつかない。
こうした慢性的自己疑念は、幼児期において必要以上にほめそやされて育てられた産物である。その両親は、子どもの自尊心を傷つけないためには、長所をほめさえすればよいと誤解している。
そのような両親は、平凡な出来映えであっても、改善したほうがよい点を指摘したり、落胆を見せたりしない。その代わり、「それは○○ちゃんらしくないわね。だって、○○ちゃんは本当は完璧なんですもの」などと励ます。これが先送りタイプの予備軍をつくっている。
不幸なことに、そのように育てられた子どもは、自分自身を過大評価し、その自己評価が傷つけられることに恐怖するようになる。また、両親の称賛が偽りであると知れば、このような子どもは失望を倍増させる。
このような経験がある場合、両親のほめ言葉に偽りを嗅ぎ取り、だれかの称賛にも無意識に疑いを抱くようになる。しかも、非現実的な成果を期待されたりすると、逆ギレしたりする。
完璧主義者と先送りタイプに共通する特徴は、多くの場合、世間からそれなりに評価されるようになった後で症状が悪化することである。これは、特に先送りタイプに顕著な特徴といえる。自分の立場を優位に感じることから、仕事に悪影響が出始める。
普通の人は、昇進について「いい仕事が評価された」と考えるものだが、先送りタイプは「上司はもっといい仕事をより多く期待している」と考える。したがって、昇進は失敗の可能性が高まることへの恐怖を生み、真に努力した結果への称賛であっても、締め切りに策略をめぐらす必要性を強く感じさせてしまう。
もちろん、先送りタイプは単純な理由で仕事を放棄するのではない。たとえば、他の仕事が飛び込んできたり、病気や家族の問題、車のトラブルといった言い訳の常套句に使われる、予期せぬ緊急事態が発生した場合である。
これらの言い訳は、質の低い仕事の弁解に使われるだけでなく、しばらくの間、周囲も彼ら彼女らの能力を高く見積もるという矛盾した結果をもたらす。たとえ成果が出なくても、いたし方ない不利な条件のせいであると納得するからだ。
逆に不利な条件でもそれなりの出来であれば、「態勢がきちんと整っていれば、もっといいパンフレットができた」と弁解できるわけだ。
[ケース(4)]
失敗まみれの営業責任者デイブ・カルドウエル
極端な場合、「打席に立たなければ三振もない」と考えて、無意識に仕事をさぼる。両親が共にコロンビア大学の教授であるデイブ・カルドウエルがこの例に当たる。
優秀な両親に「スターであれ」と言われ続けてきたデイブは、優秀な成績を上げなければと意気込んで机に向かったものだ。しかし、いつもトロフィをつかめるところにいながら、不幸な運命に見舞われたかのように、それを逃してきた。
たとえば、大学時代は重要な試験の数週間前に、本来ならば図書館で勉強にいそしんでいたはずのところを、スキーの事故で入院することとなり、優秀な成績を修めることができなかった。しかし、さまざまな挫折に遭遇しながらも、アイビー・リーグの大学でMBAを取得し、ふさわしい幸運をつかんだかのようだった。
デイブは卒業後、ビジネススクールの友人が学部の頃に創業したコンピュータ・ゲーム会社で働くよう誘われた。もちろん、デイブに営業の実務経験はない。しかしこの友人によれば、マーケティング・ディレクターと連携を図りながら、コムデックスのような展示会で、会社を代表する役割を果たしてくれればよいというものだった。したがって、コムデックスの秋の展示会に向けて、卒業後すぐに参加することが唯一の条件だった。
デイブは、新興企業のストック・オプションで億万長者になるという大いなる夢を抱いて、この契約を了承した。
展示会に向けての数カ月の間、デイブの仕事は完璧に見えた。商品を知り、重要な顧客との関係を築き、営業に関する本をかたっぱしから読みあさった。しかし、ここでもまた悪魔が待ち受けていた。
彼は飛行機恐怖症だったが、バリウム1錠で何とか我慢することができた。ところが、である。偶然にもその薬を忘れたため、便を変更しなればならなくなった。結果として、彼はコムデックスの展示会に半日遅れで到着することとなった。
下手を打ったのは、その時だけではない。在職期間を通じて、同様の不手際で悩まされ続けた。2度目の展示会では、会場に〈フェデックス〉で送った荷物のなかに注文票を入れ忘れ、2日間にわたって注文を手書きしなければならず、営業活動を停滞させた。また別の時には、展示会にPCの電源コードを持参するのを忘れ、その代わりを探すために展示の時間を大幅に無駄にした。
これらの不手際が大問題に発展することはなかったが、友人が期待するようなプロフェッショナルとして会社を代表するという夢はついえてしまった。1年半以上もデイブの失態を見てきた友人は、やむなく彼を解雇する決断を下した。
デイブのような先送りタイプを救済するには、当人が最も恐れている失敗と向き合わせるのが唯一の方法といえる。その際、私が「大災難の疑似体験」(empathic catastrophizing)と呼ぶ方法が有効である。これは、仕事の上がりが平均以下のままで締め切りに間に合わせた場合、どのような事態が出来するかを、先送りタイプが落ち着いて考えることができるようサポートする方法である。
当人に不安を認めさせることで、両親が期待したようなスーパー・ヒーローにならなくても、素晴らしい仕事が実現できることを理解させる。そうすることで、両親はプラス評価だったかもしれないが、そうではない査定にも耐えられることをわからせるのである。
別の方法として、最終審判の日を先延ばしにすることも有効である。査定は業績リポートが提出された後で検討されることを、先送りタイプに納得させられれば、直近の仕事がうまくいかないことへの恐怖心は相当薄らぐ。
最後の方法は、先送りタイプが設定している途方もなく高い目標を下げさせることだ。
先送りタイプの仕事が、たとえばシーズン開始前のゲーム開発やベータ版テストのようなものだとすれば、後日いくらでも欠陥は取り除けることをわからせる。試作品の段階で多少の不具合はあらかじめ織り込み済みであることを伝え、問題点をマネジャーにきちんと報告させるように促す。その過程で、目標に達しない成果となることへの不安を和らげる。
* * *
時間の浪費は、それ自体が問題というより、そこに表れる症状が問題なのだ。したがって、タイム・マネジメントを徹底したところで、時間浪費社員を直すことはできない。だからこそ、時間浪費社員が自分のペースを守ろうとしていること、他人からの評価を恐れていることを理解しなければならないのである。
時間浪費社員の態度を改善するには時間がかかる。時間を乱用してしまう動機は隠されており、多くの場合、強い否定を続けてきたため、長期にわたるセラピーだけが根治につながる。
しかし、このような投資から得られる成果は実に大きい。時間を浪費する動機は「業績を向上させよ」と駆り立てられた際のそれと同じ場合が多い。これを翻せば、時間を最も浪費する人材は、最も高い業績を実現できる可能性が高い。
【注】
1)引っ込み思案や弱気、従属性などの性格的特徴から対人関係に悩み、神経症の症状を進行させている人に対して行われる訓練法。
2)「自分や他の人を傷つけてしまうのではないか」という具合に、自分の意思に関係なく、同じ観念が何度も思い浮かぶ症状のこと。「強迫性障害」とも呼ばれる。強迫観念だけの人もいれば、強迫観念に同じ行為を何度も繰り返す強迫行為が伴う人もいる。
3)フロイトの理論を踏襲し、それを忠実に発展させてきた精神分析正統派の自我心理学者。ライフサイクルを重視すると共に、「児童期を各段階特有の精神的・社会的危機を通してのパーソナリティの漸進的展開」として漸進理論を主張した。
4)自分自身を愛すること。自己愛を、精神分析学者のハインツ・コフートは「他者との関係性における自分の心のあり方」ととらえ、ジークムント・フロイトは「人間の成長過程における一つの愛のかたち」と位置づけている。
堀 美波/訳
(HBR 2004年6月号より、DHBR 2005年2月号より)
Chronic Time Abuse
(C)2004 Harvard Business School Publishing Corporation.
Artwork by JOEL NAKAMURA
スティーブン・バーグラス(Steven Berglas)
臨床心理士。エグゼクティブ・コーチ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョン E. アンダーソン経営大学院ハロルド・プライス起業研究センター研究員。著書にReclaiming the Fire: How Successful People Overcome Burnout, Random House, 2001.がある。
