『セサミストリート』のオスカーのように我が道を行くタイプは別として、職場で完全に自分らしく振る舞える幸運な人は滅多にいない。ほとんどの人は、心理学者の言う「感情労働」を求められている。いやなことがあっても顔に出さず、プロフェッショナルとして粛々と職務を遂行するということだ。

 感情労働は仕事以外でも必要になることはあるが(たとえば、疲れていらいらしている時にエレベーターで礼儀正しく世間話をするなど)、やはり何といっても、仕事の場で重要になることが多い。一日の中で仕事をしている時間は格段に長いし、そこでの感情労働は職業人としてのイメージや収入さえ左右するからである。

 たとえば、上司は激励のつもりかもしれないが「少ない労力でもっと多くの成果を挙げよう」などと言われれば、あなたは内心ではテーブルを叩いて反論したかったとしても、頷いて賛同せざるをえない。

 あるいは、横柄な態度の顧客から「サービスがなっていない」などと苦情を受けた時、内心では上から目線に腹を立てながらも、神妙な面持ちで頭を下げるというのも日常茶飯事である。

 また、寝不足であっても、「優れたリーダーは部下の心に火をつける」といった話を何度も聞いているので、ことさら元気で明るくいようとすることもあるだろう。

 この種の感情労働は、ほとんどの仕事と人生に付き物で、たとえば「礼儀正しさ」というような言葉で十把一絡げに論じられることがある。しかし、求められる「演技」の程度によって意味が違ってくるし、感じるストレスにも大きな違いがある。