カテゴリー理論とアイデンティティ

 今回と次回にわたり、カテゴリーとアイデンティティの理論を解説する。今回は特にカテゴリーに関する理論を扱い、次回はアイデンティティの理論を取り上げる。両者の関係については、この後に説明する。

 最初に断っておくと、カテゴリーとアイデンティティはコインの裏表のような関係にある。だが、現在の経営学でその全体像が十分に整理され、統一された理論が確立されているとまでは言いがたい。

 その第1の理由として、特にカテゴリーの研究が比較的新しく、知見が十分に統一されていないことがある。たとえば、2014年にウェスタン大学のジャン・フィリップ・ベルニュらが『ジャーナル・オブ・マネジメント・スタディーズ』(JMS)に発表したカテゴリーに関する論文[注1]では、次のように述べている。

 Our most surprising finding may be the fact that until recently, there was no mutual recognition of the existence of a distinct 'literature on categories' despite the wealth of published material on the topic.

 最大の驚きは、カテゴリーというトピックに関する大量の研究がこれほどあるにもかかわらず、「カテゴリー研究」という確立された分野が存在すると最近まで認識されていなかったことだ(筆者意訳)。

 第2に、先に述べた背景もあり、カテゴリーとアイデンティティの関係性について包括した研究が少ない。一方で、これから述べるように両者は間違いなく密接な関係にあり、今後の融合が期待されるところでもある。

 第3に、カテゴリーとアイデンティティのメカニズムを主に説明する理論ディシプリンが、それぞれ異なってきたことがある。一般にアイデンティティとは「自分が何者であるかを認識する、自己認識のプロセス」であり、主に認知心理学が用いられてきた。一方のカテゴリーは、「社会や周囲から見た、カテゴリー帰属」に焦点を当てるため、社会学のアプローチが用いられることが多い。とはいえ今後は、両方の理論ディシプリンが入り混じってくることも予想される。

 このようにカテゴリーとアイデンティティ研究の現状は複雑で、言わば「散らかっている」状態だ。ではなぜ、この十分に統一されていない分野を、それでも本連載で2回にわたって紹介するのか。