企業における学習は
なぜ行き詰まっているのか

 この25年間で、経営幹部は熱心に学習を推進するようになった。学習は必須課題であり、キャリアを保証すると同時に、競争優位性の唯一の源泉だという。

 その熱意も頷ける。今日、多くの企業にとって重要な戦略的取り組みのほとんどにおいて──世界的な危機や前例のない産業変化における舵取りから、台頭する生成AIへの対応、イノベーションの加速、人材の獲得と維持、インクルーシブな職場づくり、社会にポジティブな変化をもたらすことに至るまで、従業員の新しいスキルや知識、マインドセットの開発が不可欠である。

 実際、ますます多くのビジネスリーダーが大胆な約束をするようになった。「企業は利益を生む単なるマシンではない。社会的インパクトや社会の構成員のウェルビーイングに貢献するコミュニティでもある」と表明している。

 この約束を果たすうえでカギを握るのが学習である。特に、従業員にアップスキルの機会を提供し、能力開発を支援する組織に優れた人材が集まる時代にはなおさらだ。学習へのコミットメントは、組織の効率性を高めるだけでなく人本主義を推進するうえでも欠かせない。

 学習の重要性の高まりは、新しいタイプの上級リーダーの到来を告げている。筆者が呼ぶところの「学習リーダー」である。最高学習責任者(CLO)や学習・人材開発の責任者、人材・組織開発の責任者の場合もあれば、企業によっては最高人事責任者(CHRO)や最高人材責任者(CPO)の場合もある。彼らは自社組織と従業員のために学習を推奨し、学習計画を立てるほか、学習戦略を策定し、学習プログラムを実施している。

 しかし、彼らの取り組みの多くは行き詰まっている。こうした取り組みが個人や組織に持続的な変化をもたらすかどうかに関して、学術研究が示すエビデンスは明暗入り混じるものだ[注1]

 筆者と面識がある経営幹部の多くは、公の場では学習に対するコミットメントを示しても、内心では職場における学習の質と有効性について懐疑的だ。「これが当社の変革に何らかのインパクトを与えていると、どうしてわかるのでしょうか」という発言をよく耳にする。また、従業員側にも懐疑論はある。「上司は実際のところ、私の学習など気にかけていません。気にしているのは業績だけです」といった不平は珍しくない。

 筆者はこれまでのキャリアを通じて、学習リーダーに対する指導・コーチングを行い、緊密に連携してきた。彼らの取り組みが、従業員の煮えきらない態度や抵抗に遭ったり、大いに期待された挙げ句に成果を挙げられなかったりして、熱意がいら立ちに変わる様子を目にしてきた。