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なぜ同業種の企業間でコストの差が大きいのか
長年にわたり、ローコスト経営によってリーダーの地位にある企業について考えてみたい。それらの企業が卓越した業績を生み出している理由として、何が思い浮かぶだろうか。主に効率や規模の優位性、そしておそらくは徹底した倹約努力のおかげで現在の地位にあるのだろうと多くの人々は考える。企業の革新性、創造性、顧客中心主義を挙げる人はほとんどいない。しかし、まさにそれこそがローコスト経営の模範企業たるゆえんである。
実際、ローコスト経営の企業のほとんどが「最も働きやすい企業ランキング」に選出されている。給与が高い場合も多く、従業員の勤続年数も長い傾向にある。ローコスト経営の企業は同業他社に比べて、より高い割合で人材とテクノロジー(AIを含む)に投資している。
さらに、顧客ロイヤルティも高い傾向にある。ローコスト経営のリーダーとしての地位を築くには、人材と創造性が重要になるからだ。ほとんどのケースは、顧客中心主義を追求するための強力なアイデアを見事に実行した結果であり、よくあるように段階を踏んで効率を改善し、無駄を省いていくようなマネジメントプログラムとはほとんど関係ない。ローコスト経営のリーダーであることは、時間をかけて築かれた奥深いケイパビリティである。
同業種の企業間でコストの差が大きいことに筆者が最初に気づいたのは、以前、自動車部品などの製造業や鍛造・鋳造品などの工業部品の製造間接費について調査していた時である。直接労務費に対する間接労務費(現場管理監督者、工程管理担当者、品質検査担当者、マテハン担当者、再加工の専門スタッフなど)の比率を見ると、工場によって2~3倍もの差があった。
この比率が特に低い企業は、重視するポイントも業務の進め方も違っていた。たとえば、他社よりもスキルレベルの向上に力を入れ、コストの問題を解決するためにアウトソーシングに頼るのではなくテクノロジーに投資し、ワークフローの精査と再設計を頻繁に行っていた[注1]。
次に、同業種の全企業の総費用プロファイルを見ていくと、規模や立地、ビジネスモデルの違いといった外部から見える要因では説明のつかない大きな違いがあることに筆者は気づき始めた。一部の企業には、競合他社と実質的に同じものをはるかに低コストで設計・生産・供給できる理由がその奥深くにあったのだ。この気づきから、筆者は戦略コンサルタントとして、そしてビジネススクールの教授として、ローコスト経営を実現している企業のリーダーシップ、企業文化、オペレーションシステム、価値提案、投資、技術リソース、人材マネジメントのあり方がどのように異なるのか、数十年にわたって研究することとなった。
本稿では、筆者のこれまでの研究結果から得られたエッセンスを紹介する。匿名の自動車メーカー1社を除き、本稿に挙げる企業はいずれも筆者のクライアントではない。ほとんどが有名企業であり、途中で困難に突き当たった企業もあれば、なかには現在も必死に奮闘している企業もあるが、いずれも驚くほど長期にわたって成功し続けた経験があり、企業の特性を活かして課題を克服していくものと思われる。
筆者の研究結果は、大きく2つのカテゴリーに分けられる。1つはリーダーシップと組織と文化、もう1つはオペレーティングシステムの設計と実行である。