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偉大なイノベーションはどのように生まれるのか
世界有数の大企業やスタンフォード大学経営大学院で最も人気のあるアントレプレナーシップ講座。そこでイノベーションについて教える際、筆者らはしばしば、次の4つのイノベーションに共通するものは何かと問うことから始める。すなわち、(1)19世紀後半のシカゴの食肉処理場の移動式解体ライン、(2)いわゆる「ジャパニング」の技法で使われる、速乾性に優れたニトロセルロースのブラックラッカー、(3)1887年にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の共同創業者であるウィリアム・プロクターが導入した従業員向け利益分配制度(プロフィット・シェアリング)、(4)アイザック・シンガーが19世紀に確立したシンガーミシンの現地販売代理店のネットワークである。
企業やスタートアップの最も優秀な頭脳をもってしても、正しい答えにはなかなかたどり着かない。しかし答えを聞けば、なるほど当然だと思えるだろう。正解はヘンリー・フォードである。
フォードは、食肉処理場の解体プロセスにヒントを得て、移動式の組立ラインを考案した。ジャパニングを採用してT型フォードの生産のスピードアップを図り、これが「黒である限り、どんな色のT型フォードでも選ぶことができる」という有名なポリシーにつながった。従業員向け利益分配制度を導入して組立作業が速い労働者にほうびを与え、彼らが自分の車を購入できるように支援した。そしてシンガーの独立販売代理店ネットワークを模倣することで、広域に営業担当者を抱えるコストを回避した。
このように先例を組み合わせることによって、フォードは苦戦していた自身の会社を市場リーダーへと変貌させた。彼はのちに「私は新しいものは何も発明していない。誰かの発見を組み合わせただけだ」と語っている。
イノベーションは途方もない大仕事である。まったく新しい何かをつくり出さなければならないと考えると、怖じ気づいてしまうかもしれない。しかし、このような感覚を持つ人は重要な真実を見落としている。偉大なイノベーションのほとんどは、既存のアイデアをクリエイティブに組み合わせたものだということである。例には事欠かない。
ネットフリックスの共同創業者であるリード・ヘイスティングスは、地元のスポーツジムの月額会員制度、アマゾン・ドットコムのオンライン注文・決済システム、日本で発明されたばかりのDVD規格、デジタルコンテンツの一元管理を組み合わせることで、DVDのレンタルビジネスを再発明した。
ウォーレン・バフェットは3つのアイデアを組み合わせて、傾きかけていた繊維会社のバークシャー・ハサウェイを、価値創出の原動力となる巨大な投資会社へと変革した。
バフェットのアイデアの1つ目は、企業買収の「葉巻の吸い殻(シガーバット)」アプローチである。これはコロンビア・ビジネススクールで教鞭を執っていた恩師ベンジャミン・グレアムの教えで、評価額の低い企業にも、捨てられた吸い殻のように、あと数回くらいは吸える価値が残っているかもしれないという考え方だ。